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もどれないさかみち。
次の日、学校には行くことにした。
たぶん何をしても先生からは逃げられそうにないし、きっと逃げようとすればまた追いかけてくる。先生とエッチしてるときに何度か携帯を向けられていたような気もするし……もしかしたら、何か撮られていたのかもしれない。
そう思うと、昨日残していった『また明日、学校で』という言葉に逆らえるわけもなかった。
お腹が重くなる思いでなんとか辿り着いた学校で、早速「おはよ」と声をかけてくれた玲史くんに、わたしちゃんと返事できてたかな? まっすぐに彼の顔を見られなくて、ついそっぽを向いてしまう。
「大丈夫? まだ調子悪いのか?」
「う、ううん、平気だよ? ちょっとだけぼーっとしてたっていうか、なんでもないよ」
「そっか、……あんまり無理すんなよ?」
「ありがと、玲史くん」
ごめんね。
そう言いたくなるのを我慢しながら、始業ベルに促されるように、わたしたちはそれぞれのクラスに戻った。もしかしたら今日もまた何かされるのかもしれない……そんな恐ろしさが込み上げて止まってくれそうになかったけど、ここでは玲史くんがいてくれる。それだけで、まだ耐えられそうな気さえした。
そんなわたしの考えが甘かったと知ったのは、5限目の休み時間。
玲史くんと放課後デートをしようと考えていたときに、ふと携帯が鳴って――見てみると、先生からの着信だった。
「もしもし?」
『もしもし、新島さん。あぁ、先生と呼ぶのはやめてくださいよ? 誰が聞いているかわかりませんからね』
「よ、用事は何なんですか?」
『ふふふ、随分声が震えていますね?』
「そんなこと、」
『安心してください、僕は別に、新島さんに無理強いして自分とセックスさせるような男じゃありませんよ』
「よくもそんなこと……」
『今日は、僕が手出しすることはないですよ』
「は?」
『このあと、森崎くんと合流するのですか? するでしょうね、きっと』
「あの、それがなんだっていうんですか?」
だんだん、先生の持って回ったような言い方に苛立ってきていた。あまり声を上げると見つかりますよ、という挑発みたいな声が聞こえたけど、何をさせられるにせよはっきりしないのは気持ち悪かったし、不安ばかり煽って楽しんでいる様子の先生にも腹が立った。
「何かしなきゃいけないなら、さっさと言ってください。わたしは、さっさと済ませて玲史くんとデートしたいんです」
『それでしたら、問題はないですね』
「え?」
意外な言葉だった。
自分では何もしないなんて言っているけど、そんなことできるわけない、きっと一昨日みたいに、玲史くんとのデートなんてできなくなるくらい、通話すらもさせてもらえずにずっとさせられる……そう覚悟していた。
問題ないってどういうこと?
わからなくて、何も言えなくなったわたしに、先生は朗らかに笑いながら言った。
『森崎くんと合流したら、美術準備室にまた来てください』
「え、なんで、」
『もう1度、そこでセックスしていただきたいからですよ』
先生の声は、なんでもないことを当たり前に話しているように、いつも通り『先生』の声だった。
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