31人が本棚に入れています
本棚に追加
わすれもの
「じゃあ、また後でね」
分かれ道で手を振って、玲史くんと別れる。優しげに手を振って答えてくれる眼差しに改めて自分は彼が好きなのだと実感しながら、わたしも家路につく。
そろそろ春が近づいてきて、ちょっと前ほど寒くなくなった帰り道。
膨らんだ蕾が目立ち始めた桜並木を見上げながら、さっそく玲史くんに連絡をとろうとして、ふと気付いた。
「あれ?」
カバンの中に入れたと思っていた携帯が、どこにも見当たらなかった。いつもしまっているスペースにも、その隣のちょっと違う場所にも、見当たらない!?
「あれ、あれ? おかしいな、教室出るときはあったし……!」
放課後ってどうしたっけ、教室出て、玲史くんを隣のクラスまで迎えに行って、それから旧美術室でエッチして、それから……あれ、そのとき携帯カバンから出してなかったっけ?
早く戻らないと下校時刻になっちゃうかな、いま何時……あぁ、携帯がないんだった! あぁ、もう!
* * * * * * *
全速力で走ったからか、どうにか下校時刻には間に合ったみたいで、まだ陸上部の人とかがグラウンドで走っているのが目に入った。よかった、すぐ取って来て帰ろう。
そうしたら、また玲史くんとお喋りできるし! 期待に胸を膨らませて、生活指導の先生に注意されたりしないように早歩きを保ったまま旧美術室に入る。探すと携帯はすぐ目に付くところに置いてあって。あぁ、なんで忘れちゃったんだろ、ほんと時間無駄にした~。
安心してカバンに携帯を入れたときだった。
「新島さん、どうかしましたか?」
どこか甘さの漂う声が、入り口から聞こえた。
最初のコメントを投稿しよう!