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よるはながくて。
「え、なんで……」
「愛崎先生は用事があると仰っていたので、僕が代わりに伺いました。大丈夫ですか、新島さん?」
後ずさりするわたしを心配そうに見つめながら、前島先生は距離を詰めてくる。改めて見ると、本当にこの先生は顔がいい。本性を知ってしまった後でも、思わず気を許してしまいそうになる。
「おや、少し顔が赤いですよ」
「――――――っ、」
近付けられた顔に、思わす怯んでしまう。だって思い出してしまう、昨日と同じように近付いてくる顔と、昨日と同じように見つめてくる瞳、昨日と同じように囁いてくる声……部屋にいるはずなのに、昨日のホテルのように思えて。
身体が震えてくる。
「お、おか……、」
「ご心配には及びませんよ、今日は大切なプリントを届けに上がっただけです。今度の模試に関するお知らせと、保護者の方との三者面談のお知らせです。三者面談についてはお母さんに渡しておきました」
そう静かに言って、先生は立ち上がった。どうしてか、その姿を目で追わずにはいられなくて。わたしの視線に気付いた先生から「どうかしましたか?」と訊かれてしまう。
「べ、別に、なんでもありません……」
「そうですか?」
ゾッとするような声が聞こえた。
全部お見通しだというような、艶のある声。途端に、先生の顔が昨日の夜と同じ表情になったように見えて……、思わず唾を飲み込んだところで、急にまた雰囲気が変わった。
「それならよかったです! あまり僕が言えるようなことではありませんけど、健康第一ですからね。今日はわざわざ押しかけてすみませんでした。本当に、愛崎先生もたまには自重してくれれば……」
「え?」
「あぁ、いえ、なんでもありませんよ? こちらの話です。それでは、また明日学校で。いろいろお話しましょう、新島さん。早く寝なきゃ治りませんからね?」
最後に先生っぽいことを言いながら、笑顔のまま先生は出て行った。
愛崎先生がどうしたのか、それもちょっと気になった。けど、それよりも、どうしよう、たぶん今のわたし、普通じゃなかった……先生が迫ってくるんじゃないかって予感してて。
それをどこかで、期待してた……?
そんなわけないのに……、違うのに……。
更けていく夜の暗さと身体の奥で苦しくてたまらないむず痒いような熱さが、どんどんわたしを蝕んでいくような気がして。
眠れるはずなんてなかった。
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