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3/14の本当はね
3月14日。
私はこの一か月、ケイスケの後姿をちらちら目で追って。
でも彼はやっぱりいつも通り。
友達とふざけたり、一人ヘッドフォンに閉じこもってたり、私とだって今まで通り、友達らしく笑って、会話して。
うん、いつも通り。
だから。
「かの子」
放課後、帰ろうと玄関へ向かったら。
不意に、ケイスケに呼び止められて驚いた。
「なぁに?」
なぁに、なんて返事したけど。
本当はね、心臓バクバク。
だって、私は好きだから。
「ちょっとこっち」
ちょいちょいって手招きして、さっさと歩いて行ってしまう。
玄関を出て、どんどん門へ向かって行く。
私は慌てて靴を履いてケイスケを追いかけた。
「ケイスケ!?ちょ、待って」
追いかける私をちらりと振り返って、でも足は止めない。
とうとう門を出て行ってしまった。
え、ちょ、何?
走って門まで追いついた私を、彼は口の端を持ち上げて笑った。
「おせーぞ」
「だって、アンタがさっさと行っちゃうから!」
二人並んで歩いて、通学路、いつも鉢合わせる少し手前。
ケイスケに腕を掴まれて引っ張られた。
「こっち」
踏み入れたのは道から少し奥にある、小さい公園。
ケイスケは鞄に手を突っ込んで、それから私の目の前に差し出した。
手のひらよりも少し長い袋。
可愛い赤いリボンが結んである。
「……え?」
驚いて目を見張った私の方へ、ずいと押し出すようにした。
「ほら、ホワイトデーだから」
忘れてた。
いや、わかってたけど、お返しなんて貰えると思ってなかったから、考えてもみなかった。
見上げたケイスケの顔は少し赤い。
「ほら、」
そう言って、もう一度ずいと押し出した。
「あ……りがと、」
「ん、」
「あけて、いい?」
「あぁ、」
赤いリボンをほどいて、長い袋から手のひらへ傾ける。
するりと滑り出てきたのは、ピンク色をした、これは、
「……飴?」
「あぁ」
「長っ!」
つまんで目の高さまで持ち上げた。
これは、いわゆる、
「金太郎あめ、ってやつ?」
「そ」
「わーっ、かわいい!」
「飴の意味、わかってる?」
飴の意味?
それは、『私も好き』
一気に顔が熱くなった。
「え、え、え、」
「なに、」
「だ、だって私、」
「あぁ、お前放り投げるようにチョコ渡してきたもんな」
「や、あれは、えっと」
「でも、俺は嬉しかったよ」
「え?」
「俺にしか渡してないだろ?」
「っ、」
「それに、ハートだったし?」
カッと顔が熱くなった。
「本当はさ、期待してたから」
ケイスケは照れたように目を伏せて、困ったように笑った。
「本当はさ、俺が、かの子をずっと好きだったから」
言いながら、ケイスケは私の手にしていた長い飴を指さした。
「こんなもんじゃないけど、これくらい、ずっと」
端から端まで、指をさす。
なんだかぐっときて、目に涙が滲んだ。
「かの子」
いつもよりもずっと柔らかい声で私を呼ぶ。
「俺とつきあってください」
私は。嬉しくて。嬉しくて。嬉しくて。
何度も首を縦に振った。
「私も、すき」
ははって笑う声がして。
私の体は包まれた。
やった!聞こえた声は頭上から。
私も。
やった!
心の中で思い切り、叫んだ。
~fin~
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