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プロローグ
その日は、朝から嫌な天気だった。
厚い雲で覆われた空は今にも泣き出しそうで、雲の上で発生した稲光が時々暗雲を照らし出している。吹き荒ぶ風に窓がガタガタと音を立て、今にも壊れてしまいそうだ。
ソアラは窓際に立ち、不安げに窓の外を眺めていた。家の裏にある井戸に水を汲みに行きたいのだが、嵐のような天気に気後れしてしまっていたのだ。
この家に住んでいるのは、今年17才になったばかりのソアラと祖父のハーシルだけ。朝の水汲みはソアラの日課になっていた。
ソアラには両親がいない。母親はソアラが七才の時に事故で亡くなった。父親は、生きているのか分からない。それでも、ハーシルが親代わりになって育ててくれたお陰で、寂しいと思う事は無かった。
近くの木立が風に煽られる様をじっと見つめていたソアラだったが、やがて意を決すると、手桶を手に戸口の方へと歩いていく。戸を開けると、ビューっと音を鳴らしながら風が吹き込んできて、テーブルに掛けられた布を吹き飛ばした。ソアラは慌てて戸を閉め布を掛け直すと、今度は勢いを付けて戸を開け、素早く外へと滑り出た。
家の外は異様な空気に満ちていた。風の勢いとは裏腹に生暖かく、ぬめっとしている。さらに、時々獣の咆哮のような音が聞こえ、ソアラは思わず身震いした。
「早く汲んで戻らなきゃ」
そう独り言を言いながら井戸の近くまで来た時、一際強い風が巻き起こり手にした桶が飛ばされしまった。
「たいへん!」
拾いに行こうと走り出すと、目の前に黒いものが舞い降りた。それは背中に羽の生えた生き物で、頭には角、尻の部分にはしっぽが見える。どう見ても人ではない。
だが、その生き物は人の言葉を発した。
「ギー。オマエガ、プリンセスカ?」
「えっ? なに?」
「プリンセス、ムカエニキタ」
そう言って、ソアラの方に手を伸ばしてくる
。
「キャー!」
ソアラは悲鳴をあげると、家に向かって走り出した。羽の生えた生き物も、後を追いかけようと飛んでくる。
「助けて!」
そう叫ぶと、祖父のハーシルが戸口に立っているのが見えた。
「おじいさん!」
「ソアラ、中に入るんじゃ!」
「おじいさんは?」
「いいから、逃げろ!」
ハーシルはソアラを中に入れると、両手を前に突きだし何かを呟いた。すると、手のひらから大きな光の玉が飛び出した。
ソアラを追ってきた生き物が、避けきれずに光の玉にぶつかる。と、次の瞬間、爆発音とともに粉々に吹き飛んだ。
「なに? 今の……」
窓から外の様子を見ていたソアラは、あまりの光景に言葉を失っていた。
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