3-3 secret.

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3-3 secret.

地下街。 昨日と同じ。タイルが徐々に汚れていき、蛍光灯の光がちらついていく。地下の奥地へと来ると、時代がさらに遡るかのような錯覚に陥ってしまう。 昨日、彼女と出会った場所には彼女が浴びていた血しぶきはもちろん、形跡らしいものは何一つとしてなかった。 「君は、魔法少女と聞いてどう思う?」 「知らない。ただ、存在しているのであれば目的があるんだろ? ならば、僕はいいと思う。 僕には関係がないかもしれないから」 「関係はあるよ。君が、君たちがこうして今日も生きていけるのは私たちがいるからなの」 凛は、僕の手を取った方と思うと目の前の柱に向かって飛び込んだ。 痛いのではないか...という思いと 海外の映画で見たことがあるような気がした。 「目を開けていいわ」 ゆっくりと目を開くと、暗闇にオレンジの光が足元を照らし鉄骨で組まれた巨大地下空間の上にいた。下を覗き込めば深く10階層はある。そして何よりも足場の向こう側に見えるもう一つの足場と、透明なチューブと中に浮かぶ人間。それは展示してある芸術作品のようにも見えるし、何かの実験にでも使っているかのようだった。 「これは?」 「人間。本物よ」 目が見開いた僕に彼女は、優しく肩に顔を載せて耳元で囁く。 「外の寒さには耐えられない。普通の人間なら。今までの人間なら。」 「でも、魔法少女たちがいるから僕らは普通に生活できるって...」 「そうよ。でも、その君たちは人間である。だが、しかし それは本物とは限らない。クローンだ」 クローン。確かにそう聞こえた。間違いなんかではない。ここまで疑問にも思わずに彼女の発言を信じていた僕だが なんというか 信じられなかった。 今までは、別に嘘だとしても構わない。そんな気がしていたからだろうか。だが、今は違う。 目の前にいるのは人間だ。精巧なマネキンやろう人形かもしれないが、時折かすかに動く体は人間であることを主張しているようだった。 「僕はクローン...」 「私も」 僕から離れた凛は、上着を脱いで二の腕が見えるようにとキャミソール一枚になった。脇の下には、お菓子の包装とかでよく見るドットの数字が描かれていた。 /JP*F*TYPE_ADMIN0009-02-AAAABBBD0023/ 「私は、魔法少女と言ったけどそれは 本物の人間とクローンの私たち 共に知りえて、時には管理するから 魔法少女 と言ったの。魔法はいろいろな意味があるけど 私は、大きすぎる世界を変えてしまう力があるから 魔法っていうあいまいな言葉で言っているの」 「それは、僕にもあるの?」 僕の問いに彼女はうなずいた。 「みなと君は、おそらく JP*M*って書いてあるはずよ。普通なら、そのあとは、 HUMAN ってあるはずなんだけど」 僕は自分の刻印を見るべく服を脱いでシャツをまくった。そこには、凛とはインクの色は違い紺色だけど確かに文字が書いてあった。 /JP*M*TYPE_OBSERVER1002/ 「Observerって観察者?って意味だよね。HUMANではないのね」 「そういえば、僕がクローン...だとして 誰が造ったの?」 「人間よ?」 僕らは通路を進みエレベーターに乗り込んだ。古びたエレベーターは時折ギシギシと音を立て、薄暗く光る照明に照らされたアナログインジケーターの数字が見たことがない「B12」となっても止まらないことに驚いた。 だが、B18階層になった時点で止まった。 ドアが開くと、そこは地下とは思えないほどの街が広がっていた。天井が低いが、地面は土だし 見回せば多くの人がいる。 「ここは、人類最後の砦。生身の人間がいる場所よ。ここでクローンは作られ、未来の技術によって地上が安全になるまでの間過ごすための場所」 「いつからあるの?」 「地球冷却化が始まる1年前から。政府の計画によって集められた研究者や学者 健康的な人体を持つものなどなど が選ばれてここにいるの。そして、そのほかの人や動物はさっき見たように保存液につけられている。期限があるから永遠の保存ではないのね」 <あのチューブの中で、成長して年老いていく。もちろん寿命も来る。> 地上が自由に過ごせないのだから、しょうがないのかもしれない。 「僕らはこれからどこへ」 「私たちを知る研究者であり、私が地上で特別に活動する理由を作った人」 どこか懐かしい街並みを通り過ぎていく。ぼんやりと光る看板の近くには、酒を飲み談笑する人たちがいて、屋台ではおいしそうな肉のにおいがしていた。 まるで、昔の写真の中にいるかのような気分だった。 だが、彼女に引っ張られている僕の手と凛の手は冷たさが際立っている気がした。
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