4-4 Observer.

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4-4 Observer.

目の前には、頭がツルツルのおじさんがいた。身長が低く色白だが、光で照りついている。70代後半に見える。 「なにみてんだぁよぉ」 「おじさん禿げだって」 凛がいらないことを言う。 「最近の若い者は...」 僕は何も言っていないというのに僕の顔を見るおじさんは、寂しそうに頭をなでていた。 *** あれから、僕は5分ほど歩いたところで路地裏に入った。すぐに行き止まりにつき目の前にあった鉄扉を開けるとコンクリート打ちの壁が真の前にあった。カレンダーがぶら下がっているその壁から横を見ると、作業机とコンピューターが置かれている。 作業机の上のシャーレにはぴくぴくしている正方形の皮みたいなのがあった。 「おじさん こんにちは」 「凛かぁ 久しぶりだな」 頭が光っているおじさんは、凛を見た後に僕を見て不思議そうにした。 「みなとがなぜいるんだ? 本物でもないもんなぁ」 「本物は今研究室ですよ。彼はクローンです」 宜律 宗吾(ぎりつ・そうご) おじさんの名前だ。机の上のシャーレは、クローンの皮膚だといい地上での生活で耐えられるための仕組みを解明しているのだという。 「君はクローンか。本物のみなと君はここより下の研究室にいるよ。まぁ、忙しすぎて会うことはないだろうけどね」 まぁ座ってくれ...そう言われて埃臭いソファーに凛と共に腰かけた。 目の前には熱々の緑茶が注がれた。横にはせんべいが置かれる。 「それで、凛。今日は私に顔を見せに来てくれたわけじゃないんだろ」 「半分YESで半分NOってところ。」 時計は17時を過ぎている。おじさんはせんべいをバリバリ食べながら凛の話を聞いている。 「地上で秘密を守りながら、不良品のクローンを処理するのに少し疲れたの。それに、みなと君の識別IDが普通の人と違ったから」 「それはまぁ、いくらクローン相手だとは言え常軌を逸しているのだからなぁ」 初めて凛と会ったとき、彼女の色白な顔に似合わない血しぶきが付いていた。それは、クローンが異常行動を起こしたときに 管理者 である彼女は、様々な手段で処理をするのだという。 それは...ナイフ・銃・対クローン処理薬剤を利用してクローンを処理する。処分する。 モノとして扱われるクローンを処理する。それはつらいはずだ。感覚がマヒしているだけかもしれないが、彼女自身にとってもいいわけがない。 「それで、みなとの識別IDが違うっていうのは...見た方がいいな」 そういうとおじさんは服を脱げと言った。 腕の内側のIDを見せると、おじさんは驚いた様子で胸ポケットから老眼鏡を取り出して何度も確認していた。 「君は...何者なんだ?」 「...?」 おじさんはそのまま奥の部屋へと行ってしまった。 しばらくして戻ってきたおじさんは、スタンガンを持っていた。 「みなと悪いが一回協力してくれよ」 その瞬間首元にスタンガンを押し当てられ強いショックを受けた。 「み、みなと君っ!!」 意識が戻った時、僕は椅子に固定されていた。 「ここは?」 何もなくコンクリートに囲まれた部屋には最低限の照明があるだけだった。扉も無機質な金属製でいてかつ僕の腕には、電極パットがつけられていた。 何も音がしない空間で、何も起こらずにいると扉が開く。 「ごめんなボク」 扉が開いて入ってきたのは、僕だった。少し歳をとっているように見えるけど確かに僕だった。 「まずは、俺について言わないとな」 「俺は、キミの本物だ。生身の人間という意味だよ」 少し照れ臭いようにしていた。だが、すぐに僕を見て今回のことを教えてくれた。 「君は、識別IDにあるように観察者として地上に送られたわけだ。そして、偶然にも管理者によって出会い。君は僕に情報を提供しくれたわけだ。正確には、一世代前の君だけど...」 拘束具を取り外された僕は、こわばった体をほぐした。本物だという僕の後ろをついていき外へ出る。 「少し衝撃的かもしれないけど、見せておいた方がいいかもしれないな」 そう言って先ほどの部屋から3ブロックほど行くとガラス張りの手術室のようなものがあった。その上には... 「あれが君の一つ前のクローンだ。情報を取り出すために分解したよ」 中に入ると、血なまぐさいにおいがした。右胸の部分が開けられていた。黒いケーブルが接続されている。加えて頭の耳側にも接続されているのだった。 見開いた目が、自分だとしても気持ち悪かった。グロかった。 「しょうがないんだ。こうやってデータを取り出しているんだ。いつか本物の僕らが、かつてのように地上で自然の日光を浴びて生きていくためにも」 地下の生活も素晴らしいし、気に入っているが 多くの人は地上へ戻ることを希望している。そう説明すると、僕は立ちすくんでいる僕を引っ張り外へと出た。休憩室ような場所には、座って暇そうにする凛がいる。 「凛。彼女のもとへ連れて行ってくれないか」 「わかった」 僕は、二人がニコニコとしているなかで状況を理解したくなかった。本当に僕はクローンだったのかということ。そして、僕は無残に解体され新しい体になった。それなのに、何とも思っていなさそうにしている本物。頭がおかしくなりそうだ。 先ほどの宜律のところへと戻ると凛はうたた寝していた。 「みなと戻ったかぁ 悪かったな こうしないといけないと決まっていたからな」 申し訳なさそうにする宜律だったが僕は何も言えなかった。 「...」 自然と流れてくる涙と共に座り込んだ。自分でも理解できない感情が僕の中をかき乱していた。 「あれ?みなと戻って...なんで泣いてるの?」 「さぁな。見たくない物でも見たのかもな」 それから僕は凛に連れられ地上へと戻った。あまり詳しくは覚えていないけど、寮に戻った僕は凛に抱かれた。 「私はみなと君がまたいるだけでいいの。私が今まで処理したクローンとは違っていつまでもいてね」 その言葉には素直に喜べなかった。 「君は...」 何も言えなかった。それは、無意味だと思ったからだろうか。 怖かった。それを言いたかったし、怖くないのだといってほしかった。 だけど それは言えなかった。無意味...彼女だってクローンなのだから。
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