6-6 Rin.

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6-6 Rin.

私が地上への扉を開いた時、高揚感...いや未知の領域へ出たような感覚がした。自転車に初めて乗れて、走るよりも確かに早い速度で進んだあの時のようだ。だが、そこには恐怖が隠れていた。 /自転車に乗って転んだ幼いころ。目の前に見える地面と鈍い痛み。ぼんやりとした意識。 すぐに立ち上がるんだけど心臓がバクバクしている。/ 「仕事...高校生(行くか否かは自由)バグの処理 詳細は、9982に聞くこと」 地上へ出るときに私のロッカーに入っていた紙にはそう書かれていた。 あたりを見渡すけど、シャッターばかりで人影はない...はずだった 「0023だね。君をしばらく研修するよ」 30代の女。キャリアウーマンといった雰囲気がするハーフ顔。ヨーロッパの人の顔つきににも似ている気がする。 0023...と呼ぶのねとなれたはずの状況に少し戸惑う。 「凛…凛です。よろしくお願いします」 「そうね。ここでは名前ですね。私はsakuraって言います。よろしく」 少しうつむき加減で微笑むsakuraに私は少し見とれてしまった。甘く香る香り、それは名前同様「桜」だった。 *** sakuraは私が高校へ行かないことに驚くことはなかった。 クローンとは言っても、夜間に出ることの多いバグを処理するのに学校へ行くというのは睡眠時間の確保に苦しむからだ。楽ではないこの仕事では両方はこなせるはずがなかった。クローンも人間なのだ。 sakuraはキャリアウーマンに見える...と最初に思っていたものの 実際は彼女は公安で働いているという設定になっていたようだ。クローンで占められているこの世界で役職を作るのは簡単らしい。 そして私は、sakuraからバグについて学び処理することまでを教わった。それは人間がするとは思えないことばかりで吐き気を抑えるのが大変だった。徐々に慣れていく自分が怖くなっていた。 「バグ...それはクローンが暴走して本来の目的であったり自分自身を制御できなくなった場合のことを言うの。90%以上の確率で再起は不可能よ。だからこそ他のクローンへ伝染しないようにする必要がある。加えて暴走によって被害を発生するのを防ぐ目的があるわ」 バグを処理するとは言ってもコンピューターのようにはいかず... <自主規制> 「うぅ...」 声にならない心の悲鳴。日に日に増していくストレスに私は潰れかけていた。 「まだ、あなたは壊れていない。約半分のクローンは、このような光景に耐えられなくて地下へ行くか自らをも分解をする。その点あなたには適性があるのかもしれないわね」 分解。クローンにとっての自殺を軽く言う彼女は煙草をくわえながらそう言った。感情がまるでない人形のように冷たく、軽く。 *** FROM:9982 To:0023 T:0-0-2-3 sakuraです。 あなたも私のもとを離れて1年が経ちましたね。仲間のみんなから聞いています。勉強も頑張っているようですね。 さて、慣れないメールをしているのには理由があります。 最近私の調子が悪く、簡単に言ってしまえば バグ が起こる予兆があります。もちろんデバッグはしています。ですが、根本的な問題が起こりそうです。 私の同期もほとんどがバグとして処理されていますから、私の番台には初期不良の類で問題があるのでしょう。 ですから 私がもし、バグとして再起不能である場合にはあなたによって処理されたいです。いままで、何人もの人を教えてきた...と言っていましたがきちんと私のもとから離れられたのはあなたが最初で最後です。先行投資で送り込まれる管理者クローンを育て上げるのはかなり難しくあなたは現在のところ40個体いる管理者クローンの一人です。 最初にあなたの同期は200人いたのですが、同期で残ったのはあなたと別のクローンの2人です。 最期のお願いというやつですから聞いてはもらえないですか? ---E N D--- *** 夕凪副都心駅が見えるビルのテラスカフェ。そこから見える多くの人々の帰宅の様子。 日も暮れて肌寒い。 1年が経ち私自身はわずかに身長が伸び身体も成長した。ただ、気分では変わったことなくといった感じだ。 /わかりました。私のもとへ来てはいただけませんか?/ 「ゴメンね凛。あなたの言っていた駅前のビルまで来たけど限界が来たみたい... ご」 プツンんと切れた電話を持った手をおろして窓から下を見ると、フラフラしている姿が見えた。そのまま地下街の方へ行くようだ。 「どこ...」 地下街へと行くもsakuraの姿は見えなかった。 それでも、鼻でにおいを嗅ぐ...魔法少女とか言われているに物理的な行動で恥ずかしい限りだが、鼻を澄ます... 「こっちだ...」 シャッターが目立つ地下街の奥地。そこは私が初めて地上へと出たあの場所だった。 偶然なのだろうけど、私はここで出会い 別れるのかと複雑な思いでいると扉の前で座り込むsakuraがいた。 「久しぶりだな 0023...凛」 バグとは言っても様々なタイプがある。元気にそのまま不良が起こり突如異常動作し、壊れたように同じことをしゃべり続ける者。性格が変わったように暴力的になる者。そして、彼女のように老衰しきってから変わる者。様々なパターンがあった。 共通してそれらは害悪にしかならないということがわずかな希望も消し去る。 「sakura。 本当にいいの?」 「10%の可能性もないし、無駄だ よ」 そうしてそのまま目を開いて眠ったsakuraはすぐに立ち上がった。 「へっ 桜から散れ散れ数字の蕾を膨らませて…」 頭がおかしい奴。いや、シンプルに怖い。ほんの数十秒前の彼女ではなかった。 だから だから 私は彼女を無力化させる。 手に握った<自主規制>が彼女を貫く。跳ね返る赤い液体に私は震えながら後ずさった。 一瞬微笑んだ彼女に私は怯えながらもいつものようにした。すぐに回収班が来るはずだ... 「さようなら」 気づかずに流れた涙が頬を伝って流れる。 まだ手に残る感覚。鉄のような匂いと桜の香り。終わったことを実感するもどこかでそれを否定したかった。 横を向くと、そこに一人の青年が立っていた。何も言わずに私を見ている。顔に着いた血を見ているのだろうか... でも不思議とその青年は表情を変えずにいる。それはまるで私を見て 「仕事をきちんとしている...」とでも言っているかのように 監視 でもしているかのようにそこに立っていた。だから、私はすっとぼけた。 「あなたは...誰?」 冷たく重たい声で青年に問いかけた。 「僕は、葉波だよ。君こそ何をしているんだ?」 「私は...」 顔に血がついている以上は、<てっへ トマトジュースが顔に跳ねたぁ>とは言えないだろう。 「この世界を守っているのよ?」 「なぜ疑問形」 うん。ごまかせなかった。こうなったら最後の手段を使うしかなった。 「知らなくていいことよ」 持っていた小型の麻酔銃で彼を撃った。目の前で膝から倒れる彼の頭を支えながら壁沿いに連れて座らせた。 「どうしようかな...」 そう言っているうちに私はsakuraのことで流していたはずの涙や感情がリセットされていた。これは慣れなのだろうか... *** ふと思い出す。sakuraが言った人間らしい言葉。 「香りはあなたを主張するの。クローンであっても似合った香りが自分を奮い立たせる。そしてその香りは、消すことのできない私たち<管理者>の物」 目の前で眠り込む彼が私のところへ来たのは偶然だろうか。だが、手に持ったレジ袋が不自然だ。もしかしたら、私の香り...につられてきたのだろうか。 だとしたら彼も管理者...でもなぜ、知らないふりをしたの?それに管理者で彼を見たことはない。 それに加えて私だって一人でいることがつらくなって来ていた。友達も家族も、そして目の前で消えた師匠も。 <君は私といてくれるのか> 突然の発想に私は驚きながらも納得した。それにこれは偶然ではないのかもしれないと。 私は、私の香りがする香紙を彼の手に握らせた。 「私も高校行こうかな。処理の仕事だって慣れてきたんだし」 /最初からすべてを言ってしまっても仕方がない。だから、私が魔法少女であるという前提で話すことにした。魔獣を倒すかバグを倒すかの違いだからいいでしょう/ その後、青年が目が覚めたを確認して 地下に電話をした。 「葉波みなと そう書かれた学生証に書かれていた夕凪副都心商業高校への入学をお願いします。」 すぐに届けられた制服を持って家に帰った。 鏡で見た制服姿の私は、それなりに似合っていた。 灰色のセーラー服。リボンは藍色 男子の学ランとバランスがよく好きになった。 「人生...クローン生活初の学生かぁ sakuraにも見せたかったかも」 思い出す、かすかな桜の香りに私は外を見た。 夕暮れのブルーモーメントに、過去を思い出し 流れる時と明日に思いながら。
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