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手紙
ある日の放課後、いつものように、ジローと二人で畑のキャベツについた青虫を取っていた。
「この前、大人になったデカい青虫、見つけた!」
とジローは言った。
「青虫は大人になったら蝶になるんだよ。」
と私は深く考えずに言った。
「えっ?どういうこと?」
ジローはまるでわからない、といった顔で私を見た。
「青虫は少し大きくなったら葉っぱの陰に隠れて、ゆっくり体の中が蝶々になって、青虫の中からひらひら飛び出すんだよ。」
「ホント? じゃオレは?オレは大人になったら何になるの?」
「人間はなりたいものになれるよ。ジローは何になりたいの?」
「オレ、トラックの運転手になりたい!」
「カッコいいね。ジローなら、きっと運転手になれるよ。」
「どうすれば運転手になれるのかな?」
「頑張って字を憶えて運転免許ってのをもらうんだ。」
「字を憶えないと運転手になれないのか?」
「そうだね。字を憶えなきゃ・・・」
その日から私は毎日、ジローに手紙を書いた。運転免許を取るために最低必要な漢字くらい読めるようになればいいと思ったからだ。
大好きなジローへ
雨の日も、風の日も、土曜日や日曜日の学校が休みの日も、毎日、学校の花に水をあげるジローは心の強い人間だと思います。校長先生との約束をしっかり守って休まずに仕事を続けるジローを私は尊敬しています。花はきっと喜んでいます。野菜も喜んでいます。私も嬉しいです。お返事下さいね。 ミユキ
すると、その日の放課後、思いがけずジローは私に返事の手紙をくれた。
大好きなミューちゃんへ
お手紙ありがとう。川本先生といっしょに読みました。オレは漢字はあまり読めないし書けないので、これから勉強します。また手紙書いてね。ありがとう。 ジロー
それは相当に頑張ったらしい大きな絵のような文字で書かれていた。グネグネ曲がった釘が散らばったような文字を見て、私は胸が熱くなった。
手紙は中学校を卒業するまで、毎日のように書いた。ジローも必ず返事を書いてくれた。ジローの返事は、川本先生がいつだって一緒に考えて書いてくれているのだと思っていた。
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