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夜中にふと目が覚めた。いつもなら朝までぐっすりなのに、トイレに行きたくてたまらない。夜中にトイレに行くのは怖いし嫌だけど、このままではおねしょしちゃう。そうっとベッドから出ると、きちんと閉められていないカーテンの隙間から月の光が差し込んでいるのに気がついた。光はお雛様とお内裏様の顔にあたっている。昨夜見たアニメのことを思い出して怖くなったけど、馬鹿々々しいと頭を振ってから思い切って眺めた。お雛様とお内裏様の顔が月明かりに浮かび上がるはずが、真っ黒な髪の毛で覆われていた。私の頭を呪いという言葉がよぎる。気づけば私は叫び声をあげていた。
「お姉ちゃんうるさい」
「一体どうしたの?」
宏和が寝ぼけ眼で文句を言い、驚いた両親が慌てて部屋に駆け込んでくる。私はその場にしゃがみこんでがたがた震えていた。
「杏奈、杏奈。一体どうしたの?」
「お雛様が、お雛様が」
私がお雛様の方を指さすと、お母さんとおとうさんが何これと言い、しばらく二人で話してから笑い声をあげた。
「杏奈、お雛様とお内裏様の首を動かしただけよ。宏和のいたずらね」
顔をあげるとお父さんがお雛さまとお内裏様の首を動かして、顔を正面に向けていた。宏和は人形の首を動かして頭の後ろが正面になるようにしたらしい。宏和のいたずらだと知ってホッとしたけれど、宏和の嬉しそうな声に腹が立った。
「お姉ちゃんのこわがり~!」
いたずらが成功した宏和は手を叩いて笑っている。お父さんが宏和を叱り、お母さんが私を落ち着かせてくれる。あまりに怖かったから、お母さんにトイレまでついてきてもらった。いつもは一人で行けるんだからね。今日だけは特別。部屋に戻ってお雛様を確認するといつも通りの微笑みを浮かべている。ドキドキしながらベッドに入って、憎たらしい宏和を毒づきながら眠りに落ちた。
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