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「そんな風に今日のこの日まで過ごしてきたのですが、今日は確かに、なんだか朝から奇妙な心持がしていたのです。胸騒ぎというやつですかね。いつものように仕事に出たのですが、食糧集めにもあまり身が入らない有り様で。何がと言って説明はできないのですが、何かがいつもと違っているのです。空気の色とでも言いましょうか、妙にざらざらしているようで。それで何気なく空を見上げてみたら、高くて青い空に、白い月が出ているではありませんか。そりゃもう驚きましたよ。でも、野ねずみの寄り合いなんかで、長老連中から時にはこんなことがあるとは聞いていましたからね。とにかくもう早めに仕事を切り終えて、帰ることにしたんです」
「なるほど」
シャルルはますます興味深そうに頷きました。
「それで、家に帰って何気なく白い月が出ていることを話したんです。それから奥の部屋で息子を遊ばせてやっていたのですが、その間にコレットが白い月を見に、表に出たんですな」
「ええ、そうなんです。その後は、先ほどシャルルさんにお話ししたとおりですわ。はじめ、主人はわたしの話を信じてはくれませんでした。けれど、ジェラルドが実は自分もギィが月にいるのを見たと言い出して、それでアルマンも表に出て、月を確認しましたところ……」
「やっぱりギィがいたのですよ、月の中に」
シャルルはふっさりと柔らかそうな毛に覆われた顎に手を当てると、
「なるほど、確かににわかには信じがたい話かもしれませんね。しかしとにかく、あなた方はギィに会うために、月を目指すことになさったのですね」「そうなんです。ところが、行けども行けども月との距離は縮まらず、ちょっと休憩しようと腰を下ろしたら、ついみんなぐっすり眠りこけてしまって……」
「気がついたら夜になってしまっていたんですの。空を見上げても、もうあの白いお月さまはいませんでした。わたしは絶望に暮れましたわ……。もしかするとあの子に会えるかもしれないという想いでいっぱいでしたもの。だからわたし、ひどく落ち込んでしまっていたのですけれど、とにかくもう少し歩こうと言うことになって、主人の後をついて歩いていましたら、こうしてあなた、シャルルさんに出会ったというわけなんですの」
「そうでしたか。そういう事情がおありだったのですね。なるほど、事情はよくわかりました。それで、コレットの先ほどの発言につながるというわけですね」
「ええ……。でもいいんですの。先ほども申しましたように、あなたみたいな猫さんと──ええ、猫はわたし達の天敵みたいなものですのに、こんな風にご親切にしていただいて、素敵な月夜のティータイムまでできたなんて、充分奇跡ですもの」
「ははぁ、奇跡ですか」
コレットの言葉にシャルルの瞳が愉快そうな色をたたえて光りました。
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