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14
シャルルとコレットの会話を聞いていたジェラルドは、だんだん元気を取り戻すとコレットの胸の中から飛び出して、興奮したように瞳を輝かせ、シャルルに向かって勢いよく飛び跳ねながら言いました。
「奇跡って、すごいことっていう意味なんでしょ? うん、確かにすごいや! だってぼく、猫はみーんな恐ろしい怪物なんだって思っていたもの」
「これこれ、ジェラルド。シャルルさんに失礼だぞ」
アルマンにたしなめられ、ジェラルドは不思議そうに首を傾げました。
「どうして失礼なの? シャルルさんのおかげで、ぼく、猫が怖くなくなったって言いたいんだよ?」
シャルルはおもしろそうに笑いました。それからジェラルドのつぶらな瞳をのぞき込むと、
「それは嬉しいことです。きみは猫をひとくくりにしてしまわないで、わたし個人を見てくれたのですね。でもひとつご忠告を。大概の猫は、恐らくきみが思っていた通り、鋭い爪や牙を見せびらかすチャンスをいつもうずうずしながら窺っていますから、見かけても決して近づかないことです。もし興味があっても、遠くから眺めておくに留めるべきでしょうね」
ジェラルドはシャルルの忠告にじっと耳を傾けていましたが、話を聞き終えると、得心した顔で頷きました。
「うん、わかったよ。シャルルさんは、たまたまいい猫さんだったってことだね。ぼく、これからもしもまた猫に出くわすことがあったら、用心して観察してみるよ」
シャルルは興味深く金色の目を見開いて、感心したようにジェラルドを見下ろしました。
「きみはとても聡明な野ねずみさんですね」
シャルルの言葉にジェラルドがぴんとしっぽをを立てて、嬉しそうに胸を張ったのをあたたかく見守っていたシャルルは、不意に傍らに置いていたステッキを手に取りました。そしてゆっくりと二本の足で立ち上がると、野ねずみの一家を見回しながら、にっこり笑って言いました。
「ところで、皆さん。先ほどのお話ですが、もしかしたら、わたしが皆さんのお役に立てるかもしれません」
「え?」
「お役に立てるって、なんのことです?」
三匹はきょとんと呆けたようになって聞き返しました。
人間のように二本の足で、ベンチから二、三歩ほど行ったところまで、非常に洗練した足取りで歩いて行ったシャルルは、ふと立ち止まって三匹を振り向きました。それから、やおら手にしたステッキを高く掲げて言いました。
「月に行くというお話ですよ」
三匹は一瞬息を呑んで、大きく目を見開きました。シャルル・ド・ラングが空に掲げたステッキのてっぺんでは、大きな猫目石が月の光を受けて夢のようにきらめいていました。それはシャルル自身の瞳とまったく同じ輝きでした。
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