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17
空のはるか彼方に浮かぶように思っていた月でしたが、それほどの時間もかけないうちに、眩しく輝く月がその大きな神々しい姿を現し、野ねずみの一家とシャルル・ド・ラングの目の前に迫っていました。
「いやぁ、はじめはまるで信じられないと思っていたが、とうとうこうして月を前にすると、この奇跡を信じないわけにはいかないなぁ」
アルマンは少し前からすっかり興奮しきっていましたが、いよいよ月をすぐ目の前にすると、しきりにふんふんと鼻息を漏らしながら言いました。
一方、先陣を切って歩いていたコレットは、月に近づくにつれて次第に冷静な、それでいて張り詰めた雰囲気を漂わせ、まるで胸に何か固い決意を秘めてでもいるかのように、一歩一歩階段を踏みしめながら進んでいました。 月はあまりに眩しく、ジェラルドはシャルルの肩にしがみついて、ぎゅっとまぶたを閉じました。けれど、閉じたまぶたの裏にも月の光は容赦なく注ぎ込み、ジェラルドは途端にお腹の底から言いようのない恐怖が込み上げてくるのを感じました。
「シャルルさん、やっぱりぼく、帰りたいよ。怖いんだ」
小さな悲鳴のような叫び声をあげて、ジェラルドは思わずシャルルのひげを引っ張りました。シャルルはジェラルドの小さな背中にそっと手を添えて、手のひらに乗るよう促しました。シャルルの手のひらに居場所を変えたジェラルドは、ぎゅっと閉じたまぶたの裏から涙をあふれさせ、シャルルの手のひらを濡らしました。
小さく体を丸めて震えるジェラルドに、シャルルはそっと声を掛けました。
「ジェラルド、心配しなくて大丈夫。きみの恐怖はもうすぐ終わります」
ジェラルドはぶんぶんと頭を振って、涙で濡れた鼻先をシャルルのピンクの肉球に押し付けました。
「嫌だよ、帰りたい。ぼく、怖い!」
シャルル・ド・ラングは、まるで子守唄を聞かせるような調子で、ぶるぶると震えるジェラルドに言いました。
「ジェラルド、よく聞いてください。怖いことに目を背けて逃げるのは簡単です。もしここで地上に引き返せば、きみはほんのしばらくの間はうまく逃げられたと思って安心していられるかもしれませんが、またすぐにそれはきみの前に姿を現します。それでは結局、恐怖と永久に追いかけっこをしているようなものです。いつかきみが恐怖に立ち向かって乗り越えるまで、追いかけっこは続くのですよ」
ジェラルドは頭を抱えて泣き声を出しました。
「そうかもしれない。でも、今はまだそのときじゃないって気がするよ」
シャルル・ド・ラングはにっこりと微笑んで頷きましたが、決して月に向かう足を止めようとはしませんでした。
「そう思うならひとまずは避難して、次に恐怖と対峙するそのときまで、作戦を練るのも一つの手ではあります。しかし、わたしから言わせていただくならば、今はきみがきみの恐怖と向き合う最高で絶好のタイミングです。今を逃す手はありませんよ。恐怖というものは、逃げれば逃げる分だけ、より大きくなってしまうものです。きみが恐怖に養分を与えてしまうからです。思うに、きみはすでに多くの養分を、きみの恐怖に与えてきたのではありませんか?」
シャルルの質問に、ジェラルドは薄くまぶたを開け、ぽろぽろと大粒の涙をこぼしました。
「うん、きっとシャルルさんの言う通りだよ。はじめは気がつかないふりをすることができるくらいに小さかったのに、ぼくの『怖いこと』は、今じゃものすごく大きいんだ。ぼくなんか、一飲みにされちゃうよ」
再び瞳を固く閉じたジェラルドに、
「大丈夫ですよ、ジェラルド。わたしはさっき、きみが恐怖に養分を与えていると言ったでしょう? それはつまり、きみが自分自身で恐怖を大きくしてしまっていると言うことです。でも、しっかりと目を開けてよく見てみればわかるはずです。きみが怯えていたものは、恐怖の影でしかないことに」
「影……?」
ジェラルドはゆっくりと目を開けて、シャルルを振り仰ぎました。眩い月の光に照らされたシャルル・ド・ラングの瞳は、まるで不思議な宝石のように、うっとりとした輝きに満ちてきらめいていました。
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