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18
「ジェラルド、秘密を教えてあげましょう。恐怖というものは、いつもたいてい大きくて強そうに見えるかもしれませんが、その実体は、ほんとうはとても小さなものです。そのことに気がつくことができれば、恐怖に養分を与えることを止められるのです。すると恐怖はもう影を大きく伸ばすことはできません。つまり、恐怖というものは、きみが作り出した幻でしかないのです。自分が作り出したものなら、それを自分で片づけることだって、簡単にできるはずだとは思いませんか?」
ジェラルドは身を起こしてシャルルの手のひらに座り直すと、真剣なまなざしで尋ねました。「それじゃ、ぼくは食べられたりしないってこと? 怖いことに勝てるの?」
「ええ、そういうことです」
ジェラルドは少しの間、じっと何かを考えるようにしていましたが、やがてまだ不安の残る瞳でしっぽを抱えながら、シャルルを見上げました。
「でも……もし負けてしまったら、ぼくはどうなるの?」
「そうですねぇ、もし負けてしまったら──ええ、時にはそういうことも起こり得るものですが、そのときには、確かに傷を負うこともあるでしょう。もしかしたらそれは深いものになるかもしれません。しばらくはその傷に苦しむかもしれません。けれど、自分が生み出した恐怖には、決して自分を奪わせることはできません。結局のところ、きみが損なわれることはないのです」
「それはつまり、ぼくは安全ってこと?」
シャルルはにっこりと笑いました。
「ええ、そうです。それにね、ジェラルド。物事は、いつも自分が思っているほど悪くはないものです」
シャルル・ド・ラングとジェラルドがそんな会話を交わしている間に、コレットとアルマンはとうとう光の階段をのぼりきり、黄金色の砂で覆われた月の上に足を置きました。
「まぁ、なんて不思議。月ってふかふかの草みたいに柔らかいのねぇ」
「うむ、或いはそう、まるで雲のようにふわふわしている」
コレットとアルマンは何度もとんとんと足先で月の地面を叩いて感触を確かめた後、興奮と喜びできらきらと輝く瞳をきょろきょろさせて、興味深く、そして慎重に辺りを眺めまわしました。しかし見渡す限り、何もない金色の大地が延々と続いているばかりでした。空を見上げると、地上で見ていた時よりも、もっとずっと深い色をした暗闇が、ほんのすぐ頭の上に広がっていました。まるで何もないところに浮かぶ巨大な黄金のボールの上にでも乗っているようで、なんとも夢の中にいるような不確かで頼りない感覚に、コレットとアルマンは一抹の不安を感じ、互いに顔を見合わせました。
二匹に少し遅れてジェラルドとシャルルも月に到着すると、シャルルはジェラルドをそっと地面に降ろしてやりました。ジェラルドも注意深く月の大地を踏みしめると、ちょこちょことしっぽを振りながら両親のもとに駆け寄りました。
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