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 こんな風によく晴れた秋にはよくあることでしたが、まるで世界がすべて、透き通った雫の中にいるような、そんな昼下がりのことでした。大きな樫の木の根元の穴の中にある野ねずみの家では、奥さんのコレットが近頃ずっとそうしているように、この日も朝から忙しく立ち働いていました。野ねずみは元来夜行性のはずですが、こうして昼日中から忙しく働くには訳がありました。もうすぐ冬がやって来るのです。  なにしろコレットにとって、ひたひたと確実に迫ってくる冬の気配は、お腹を空かせたキツネの足音と同じくらい──いいえ、寧ろそれよりももっと怖いものだったのです。  コレットは台所の隣の保管室で、昨晩ご主人のアルマンが集めて来た食糧を、せっせと種類ごとに分類しては大切にしまうという作業に精を出していましたが、どんなに蓄えがあっても、ちっとも足りるという気にならず、気持ちばかりが焦って仕方がありませんでした。働き者のアルマンのおかげで、保管室の棚にはもうずいぶんと食糧が集まっていましたが、コレットは何故だか、保管室の棚にたくさんの木の実や花の種や小さなキノコなどが並べば並ぶほど、ますます不安な気持ちになるのでした。  そうやってコレットが一生懸命仕分け作業をしていると、坊やのジェラルドがやって来て、小さな両手でコレットの前掛けを一生懸命に引っ張りながら言いました。 「ねぇねぇ、お母さん。お昼間なのに、お月さまが出ているよ」 2dbdbbe7-4156-4757-8515-45f4fc663b86  コレットはびっくりして、しっぽをひょいと上げながら、ジェラルドを見下ろしました。 「まぁ、いったい誰がそんなことを言ったの?」 「ぼくだよ。ぼくが今、玄関の外で見たんだよ」 「まぁ、ジェラルドったら。お母さんの言いつけはどうしたの? 勝手に外に出てはいけないと、いつもあれほど言っているでしょう?」 「わかってるけど……」  コレットの叱るような口調に、ジェラルドはうつむいてもじもじと自分のしっぽをいじりました。けれども意を決したように顔を上げると、話の続きを言いだそうとしました。 「でもね、お月さま、白いんだよ。そしてね、その白い月にね……」  コレットははぁっとため息をついて話をさえぎると、ジェラルドの顔を覗き込むように腰を屈め、 「ジェラルド、あなたを怖がらせるつもりはないけれど、あなたの双子の兄さんのギィが、恐ろしいヘビにパクリとやられてしまったのはついこの間のことなのよ? あなたまでそんな大変なことになったら、いったいどうするの? そんなことになってしまっては、あなたのお得意の『うっかりしていて』なんていう言い訳は、なんの役にも立たないのよ」  そう言ってから、コレットはいかにも悲しげな、深く長いため息をつきました。それを見ていたジェラルドは、しっぽを床に垂れ下げて、泣き出しそうに言いました。 「お母さん、ごめんなさい……」  コレットはハッと我に返って、ジェラルドを見やりました。ジェラルドは恐ろしい記憶を思い出したためか、怯えたように目を閉じて、体をきゅっと固くして震えていました。 「まぁ、ジェラルド、あなたが謝ることなんてないわ。間近で兄さんが食べられてしまうのを見て、怖い思いをしたのはあなたなのに、お母さんこそ悪いことを言ったわ。怖いことを思い出させてしまってごめんなさいね」  コレットはジェラルドを優しく抱きしめてやりました。ジェラルドは何も言わず、コレットの胸に泣きそうな顔を埋めていました。
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