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「シャルルさん、おかげさまでわたし達、とうとう月にやって来ることができましたわ。それで、シャルルさん。あの子は、ギィはどちらにおりますの?」  コレットは自分たちに駆け寄って来たジェラルドを両手でしっかり抱きとめると、落ち着かない視線をシャルルに向けました。  コレットはこれまで一度だって、こんなにもどきどきと鳴る自分の心臓の音を聞いたことはありませんでした。不安と期待が入り混じった落ち着かない気持ちで、もう思わず叫びだしたくなるのを必死にこらえなければなりませんでした。 「さぁて、この階段を見逃すことはないでしょうが、月というものもなかなか広いものですからねぇ。それではひとつ、目印を掲げましょう」  シャルル・ド・ラングはそう言うと、ステッキを頭上にかざしました。するとステッキの猫目石が、月の大地の光に反射して、きらきらと眩しい閃光を遠くの方まで走らせました。  やがて、シャルルは掲げていたステッキを下ろすと、ますます光の強くなった瞳をじっと彼方の一点に凝らしてほほ笑みました。 「コレット、アルマン、ジェラルド。あなた方の大切なご家族がいらっしゃいますよ」  野ねずみの一家ははじかれたようにシャルルの視線の先を振り向きました。すると遠くの方から、ぼんやりした靄の塊のようなものが、こちらに向かってだんだんと近づいて来るのが見えました。息を呑んでその靄を見守っていると、薄いベールをかき分けるようにして、一匹の小さな野ねずみが姿を現しました。70442bf5-5172-4226-bd41-1c995e41ef14 それを見た途端、野ねずみの一家は一斉に大きな叫び声をあげました。 「ギィ……!」  ジェラルドにそっくりなその野ねずみは、利発そうな黒い瞳をゆっくりと瞬いて、 「お父さん、お母さん、ジェラルド」  懐かしい静かな声で、三匹に呼びかけました。
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