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20
その声を聞いたコレットとアルマンは、わっとギィのもとに駆け寄りました。
「あぁ、ギィ……!」
「おまえ、やっぱりここにいたのか……!」
コレットとアルマンはギィを力いっぱい抱きしめ、滝のように流れる涙で濡れそぼったひげと鼻先をこすりつけました。「あぁ、ギィ! お母さんはずっと信じていたのよ。あなたはきっとどこかで生きているって。絶対にどこかで元気に暮らしているはずだって……!」
「ああ、そうだとも。お父さんだって、心のどこかではおまえが死んだなんて信じていなかった。だってそうだろう、お父さんもお母さんも、おまえが恐ろしいヘビにやられてしまったところを見ていないんだ。どうしたってあきらめきることはできなかった。だがもう大丈夫だ。また一家がそろったんだ。あるべき形に戻ったんだ」
ギィはコレットとアルマンの間で、全身もみくちゃにされるのに任せながらも、泣き続ける両親に向かって落ち着いた口調で言いました。
「お父さん、お母さん、再会をこんなにも喜んでくれてありがとう。ぼくも、またみんなに会えて嬉しいよ。だけど、ぼくはやっぱり死んだんだよ。お父さんとお母さんには、それをちゃんとわかってほしいんだ」
コレットとアルマンはびっくりして体を離すと、ギィの顔をまじまじと見つめました。
「おまえ、何を言っているんだい?」
「そうですよ、ギィ。あなたはこうして元気な姿でわたし達の目の前にいて、ほら、こうしてあなたを思い切り抱きしめることだってできるっていうのに、あなたが死んでいるなんて、まさかそんなことはとても現実的じゃないわ」
「お父さん、お母さん、ほんとうなんだ。ぼくはあの日、お腹を空かせたヘビにつかまってしまったんだよ。みんなジェラルドの言った通りなんだよ」
そのときアルマンとコレットは、この一家の輪の中にジェラルドがいないことに、ようやく気がつきました。見ると、ジェラルドは少し離れたところに突っ立って、蒼白な顔でギィを見つめて震えていました。
「ジェラルド、そんなところで何をしているんだ? なぜそんな風に震えているんだい」
「何も心配いらないのよ、ジェラルド。あなたの兄さんのギィは、こうして無事な姿で、元気にお月さまで暮らしていたのだから。もうあんな恐ろしい記憶なんか忘れてしまいなさい」
ジェラルドはぶるぶる震えながら、後ずさりを始めました。そうして後ろに下がりながら、何度も頭を横に振って、大きく見開いた目でギィを見つめ続けました。
「ジェラルド?」
「一体どうしたっていうの?」
コレットとアルマンはジェラルドの様子に戸惑い、心配そうな表情を浮かべました。
「ち、ちがう……ぼく、ぼく……」
今にも泣き出しそうに震える声を出したジェラルドに、ギィはそっと目配せをするような瞬きをしながら、弟の名前を呼んで言いました。
「ジェラルド、何も言わなくていいんだよ」
ギィのその言葉を聞いた途端、ジェラルドはハッと息を詰め、次の瞬間、とうとう気持ちを爆発させるように、大声で叫びました。
「ギィ兄さんが死んだのは、ぼくのせいなんだ! あの日ヘビに食べられるのは、ぼくのはずだったんだ! 兄さんはぼくの身代わりに死んだんだ!」
ジェラルドはそう言ってしまった後、喉にこみ上げる熱くて苦いかたまりに次第に息が詰まりそうになりました。そしてついには悲痛な叫び声をあげ、金色の月の大地に突っ伏して、激しく泣き出しました。
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