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ちょうどそこへ、アルマンが大きなドングリを抱えて帰って来ました。アルマンは床にどさりとドングリを落とすと、頭にちょこんと乗せた帽子を取って、パタパタと顔を仰ぎながら、
「いやぁ、まいったまいった。そこの角の所で、フサスグリ近くのイタチさんにばったり出会ったはいいが、危うく一口にやられるところだったよ」 コレットはびっくりして大きく目を開くと、ジェラルドと一緒にアルマンのそばに歩み寄りました。
「まぁ、フサスグリ近くのイタチさんと言ったら、『野ねずみの友の会』の会員さんだったはずでしょう?」
「うむ、確かにそうなんだがね、どうも今日は皆気が立っているようで、誰も彼もおかしな雰囲気だったよ。白い月が出ているせいかもしれないな」
アルマンがそう言い終えないうちに、コレットとジェラルドは、ほとんど同時に飛び上がりました。
「まぁ、このお昼間に月ですって? それも白い月?」
「ね、ね、ほらね! ぼくが言った通りでしょ!」
コレットはにわかに不安な表情を浮かべると、興奮したように父親のまわりを走り回っているジェラルドにぼんやりした視線を向けながら、
「まぁ……、なんだか気味が悪いわ……」
と呟いて、前掛けを両手で揉むようにいじっていました。
「なに、心配いらないさ。たまにはこんなこともあるんだよ。まぁぼくも、話に聞くだけでほんとうに見たのはこれが初めてだけどね、なに、大したことではないさ。だがまぁ念のため、今日はもう食糧集めに出るのはやめておくよ」
「ええ、そうねぇ。あなたが家にいてくださった方が、わたしも安心だわ」
ジェラルドはアルマンが家にいるとわかると、大喜びでアルマンの手を引っ張りました。
「よかった、ぼく、ちょっと心配していたんだ。ね、お父さん、レスリング遊びをしようよ。ぼく、昨日より強くなったかどうか、試してみたいんだ」
「ははは、そうか。それはぜひとも試してみなくちゃいけないな」
アルマンとジェラルドが居間の方に行ってしまうと、ぽつんと一匹だけになったコレットは、胸のあたりでつっかえている奇妙にざわざわと落ち着かない気分をどうしようかと考えながら佇んでいました。食糧の仕分けの続きをしようかしら……それとも枯れ葉のお布団づくりをやってしまおうかしら……。けれど、どんなことを想像しても、この胸のざわざわは消えそうにありませんでした。もしかすると、真昼に浮かぶお月さまというものを、ちらっと見てしまえば、すっかり元気を取り戻して、また忙しく動き回れるかも……。そう考えると、なんだかそんな気がしてきました。それどころか、ぜひともそうしなければならないような気がしてきました。
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