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「ま、まさか、そんなこと……」
やがてアルマンが引きつった笑顔を浮かべて口を開きました。
「シャルルさん、我々を慰めようとしてくださるのは有り難いですが、この先また残酷な期待に踊らされては、我々の身と心はもうぼろぼろになってしまうでしょう。特にコレットにとっては……」
言いながら、アルマンは妻を振り返りました。しかしアルマンの目に入ったコレットは、これ以上ないくらいに大きく瞳を輝かせ、一心にシャルルを見つめていました。そして夫の言葉も耳に入ってはいない様子で、一歩シャルルの方に踏み出して、
「シャルルさん、それはどういう意味ですの? もしかして、月に行くための手掛かりを、何かご存知なんですの? それとも、もしかしてあなたは、月に行く方法そのものをご存知だとか?」
シャルル・ド・ラングの金色の瞳は、コレットの言葉に一瞬強く、謎めいた深い光を放って輝きました。
「先ほども申し上げました通り、今夜はなんだか素敵な予感がしていたのですよ。誰か小さな方々に力を貸して差し上げられるのでは、とね」
そう言うなり、シャルルは猫目石のきらめくステッキを、ゆっくりと大きく空に向かって降りました。その途端、淡い白色に輝く階段が出現し、夜空高くに浮かぶ月までぐんぐん伸びて行きました。 野ねずみの一家は驚きのあまり、息をするのも忘れて突っ立って、ただ茫然と高く高くどんどん伸びる光の階段を見つめるばかりでした。
階段が月まで到達したのを確認すると、シャルル・ド・ラングは三匹を振り返って微笑みました。
「さぁ、皆さん、準備は整いました。わたしもお供しますから、一緒に月まで参りましょう」
キツネにでもつままれたかのように立ち尽くす一家の中で、コレットはようやく我に返ると、階段に向かってふらふらと歩き出しながら、とても信じられないと言った風に、けれども感激に震える声で言いました。
「まぁ……まぁ……なんてこと……。こんな夢のようなことが起こるなんて、いったい誰が想像できたでしょう。こんな素敵な、素晴らしい奇跡が……そう、こんな魔法が……!」
コレットの言葉に、ジェラルドはハッと気がついたようにシャルルを振り向きました。
「シャルルさんは、魔法使いの猫さんなの?」
シャルルは重大な秘密を守るような仕草で、意味ありげな笑みを浮かべた口元に指をあて、ジェラルドに向かってきらきら光る片目をつむって見せました。
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