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5
アルマンはすっかり面食らってしまい、とにかくなんとかコレットを落ち着かせようと、尻もちをついた床から起き上がり、コレットの背中をさすってやりました。
ふとジェラルドの顔を見ると、すっかり取り乱したコレットの様子を不安そうに見つめています。アルマンはこのかわいそうな息子のためにも、一刻も早くいつものコレットを取り戻させなければと思い、優しい口調でコレットに話しかけました。
「コレット、冬支度に追われて疲れているんだね。今日はもういいから、早く寝床にお入んなさい」
ところがコレットはきっと顔を上げると、涙でぐしゃぐしゃになった顔でアルマンを睨みつけました。
「あなた、わたしが夢でも見たと思っているのね」
「いや、それは、その……。だって昼のお月さまだよ? それこそまるで白昼夢みたいなものなんだからね……」
「白昼夢ですって? とんでもないわ! わたしは確かにあの子の姿を見たのよ。あなたはなんて冷たい夫で、父親なんでしょう! 外に出てお月さまを見上げてみることもしないで、わたしが幻を見たと決めつけるなんて!」
コレットは再びきぃきぃと大声を上げ、わっと泣き出しました。そのとき、ジェラルドがどこか遠慮がちな調子で口を開きました。
「あの、ぼくねぇ、さっきお母さんに月のことを言ったでしょ? あのとき、ぼく、ぼくもね、ギィ兄さんのことを見たんだ」
コレットは勢いよくジェラルドの方を向き直ると、体を屈めて息子の肩を強く掴み、ぐいぐい顔を近づけながら言いました。
「ジェラルド、ほんとうなの? あなたもギィがお月さまにいるのを見たの?」
「うん、そうだよ」
「まぁ、どうしてそのときに言わなかったの?」
コレットの強い口調に、ジェラルドは叱られたときのように身を縮めて言いました。
「ぼく、言おうとしたんだよ」
「じゃ、どうしてすぐに言わなかったの?」
「だって、ぼく、ぼく……」
ジェラルドはだんだんべそをかき始めました。見かねたアルマンは、二匹の間に割って入りました。
「まぁ、もうよしなさい、コレット。ジェラルドにしてみれば、理性的に考えたんだろうさ。そんなことを言っても、信じてもらえるかわからないってね」
「あらまぁ、それじゃわたしは理性的じゃないって言いたいの?」
怖い顔で振り向いたコレットにたじろぎながら、アルマンは必死に両手と頭を振りました。
「い、いや、そんなことを言っているんじゃないさ」
「あなたがこんな薄情な野ねずみだったなんて知らなかったわ! ……でも、そうね、わたしはジェラルドが白いお月さまが浮かんでいると言ったとき、そのことすら信じようとはしなかったんですもの。ジェラルド、お母さんが悪かったわ。あのとき、もしあなたの言うことを信じてもっとよく聞いていれば、ギィのことを打ち明けてくれていたことでしょうに」
そう言うと、コレットはジェラルドを抱き寄せ、まだ涙で湿っている鼻先を、小さな息子の顔にこすりつけました。それからアルマンに向き直ると、
「あなた、よく考えてくださいよ。わたしもジェラルドも、ギィがお月さまにいるのを見たって言っているのよ。これでも信じないの? それともあなた、わたし達が二匹そろってあなたの言う白昼夢とやらを見たとでも言うつもり?」
アルマンは何か言いたそうに口を開きましたが、はぁとため息をつくと、
「やれやれ、わかったよ。ぼくも確認してくるさ」
と言って、玄関扉に向かいました。
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