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 三匹はひたすら月を目指して森の中を歩きましたが、月との距離は一向に縮まりませんでした。三匹はすっかりくたびれて、とうとう立ち止まりました。小さなジェラルドにいたっては、もう一歩も動けないというように、その場にしゃがみこんでしまいました。  気がついてみると、三匹は森のずいぶん外れの方にやって来ているようでした。いくらも行かないところから、聞きなれない人間の声や足音が聞こえ、犬のにおいなどもしています。 「ふぅ、やれやれ。大冒険はいよいよ佳境に入って来たようだ。いつだって、冒険には危険がつきものだ。だが、こう疲れていては、いざという時に対処ができない。ちょっと一休みしようじゃないか」  アルマンの提案をコレットは喜んで賛成すると、かわいそうに地面にうずくまっているジェラルドを抱き上げ、近くの木の幹の陰に運びました。それからジェラルドの背中からリュックを下ろしてやると、自分もリュックを置いて、ジェラルドの隣に腰を下ろし、ふぅと大きな息を吐きました。そこへアルマンもやって来て、同じようにリュックを下ろすと、コレットの隣にずるずると座り込みました。 fe1592d6-09b0-4f84-a62c-f42f4b24c59f  早くも寝息を立て始めているジェラルドを膝に引き寄せながら、コレットはあくびを噛み殺していました。アルマンは遠慮なく大きな口を開け、あくびをしました。歩き疲れた体に、ジェラルドの心地よさそうな寝息と、ほんの少しの冷たさを含んだ秋の風が気持ちよく、コレットとアルマンも、うとうとと舟をこぎ始め、やがて本格的な寝息を立て始めました。  しばらく経ってコレットがはっと目を覚ますと、辺りはすっかり暗闇に包まれていました。コレットは慌てて、まだぐっすりと眠りこけているアルマンとジェラルドをゆすって起こしました。 「大変よ! あなた、起きてくださいよ。さぁさぁ、ジェラルドも、もう目を覚まさなくてはいけませんよ」 「うーん、いやぁ、なんだかよく寝たなぁ。おや、もう夜になっているのかい?」  大きな伸びをしながら目を覚ましたアルマンは、目を丸くしながら周りを見回しました。ジェラルドも目をこすりながら身を起こすと、まだ眠たそうにあくびをしました。 「もう起きる時間なの? ぼく、今日は何をして遊ぶんだっけ?」 「まぁ、ジェラルドったら、すっかり寝ぼけているのね。ギィ兄さんに会いに行く旅の途中でしょう?」  コレットがあきれ顔で言うのを聞いて、ジェラルドははっと顔を上げ、それからすぐに驚いたように鼻先をすんすん動かしながら、きょろきょろと辺りを窺いました。 「さっきまで明るかったのに、もう真っ暗だよ。ねぇ、白いお月さまはどうなったの?」  ジェラルドの言葉を聞いて、コレットとアルマンはそうだったとばかりに、急いで空を見上げました。 「お月さまは、いつもの通り……」 「金色に輝いて……」  コレットとアルマンは言いながら、がっくりと肩を落としました。昼間に見えていたあの白い月は姿を隠し、濃紺の夜空にはいつもと変わらない秋の月が浮かんでいました。 「なんてことだ。居眠りをしている間に、あの子のいる月はどこかへ行ってしまった……」  アルマンの言葉に、コレットは深いため息を吐きました。心にはまたあのぽっかりした穴が大きな口を開け、今にもコレットを呑み込んでしまいそうでした。
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