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アニバーサリー
「滝井様、お待たせしました。本日は記念日、おめでとうございます。こちら、当ホテル支配人からのメッセージカードです。本日は21階のお部屋をご用意させていただきました」
「ありがとうございます」
滝井様と呼ばれたけど、滝井は私の姓ではない。彼の名前だ。でも、彼の名前で予約したから、宿泊カードにも彼の名前と私の名前を書いた。
でも、彼が来るかどうかは分からない。
フロントからカードキーを受け取ったベルガールが私のカバンを持ってくれて、部屋まで案内してくれる。
乗ったエレベーターには、他の客はいなく、ふたりだけだった。
「お連れさまはあとから来られるご予定ですか?」
「ええ、まあ、そうですね」
ごく普通の質問なのに、私の答えは曖昧だ。一瞬不思議そうな表情を見せたけど、微笑んで、それ以上触れてこなかったのでありがたかった。
「朝から降っていた雨がやんで良かったですね」
「そうですね」
私も笑顔で返すが、心はどんよりしている。朝目覚めたときは、雨が降っていた。まるで自分の心のような空だと思ったけど、ホテルに到着する前にやんで、少し青空も見えてきていた。
部屋に入り、ベルガールからカードキーを受け取る。
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