1. 君はこれから

10/13
前へ
/223ページ
次へ
 目が覚めた。  すぐに目を開くと、彼は林の中、枯葉の積もった池のほとりに寝転がっていた。  既に日が高い。辰の刻は過ぎていそうだ。  体を起こしながら、彼は人の声を聞いた。誰かを呼んでいるようだ。自分のことかもしれないと、篭は思いついた。 「おーーーーーい」  真似をして、彼も声を上げてみた。呼び声が少し止み、それから近付いてきた。  彼がぼんやりと突っ立っているうちに、細い街道の向こうに、坊主と若い武士が現れた。武士は宋十郎だった。  坊主が彼の姿を見るなり、驚いた様子で声をあげた。 「十馬(とおま)さま!」  坊主と宋十郎は駆け足になった。  茂十以外の人間に話しかけられるのは初めてだった。近づいてきた彼らに、篭は微笑みかけた。ただし、言葉は出てこなかった。こういう場面で人間は何と言うのだったか。  歩み寄ってきた宋十郎の顔が強張っていた。坊主は武士と病人を見比べて、何故か黙ってしまった。自分が寺を抜け出したせいだろうかと、篭は思う。  若い武士の声が、妙な沈黙を破った。 「まずは戻りましょう、兄上」 *
/223ページ

最初のコメントを投稿しよう!

60人が本棚に入れています
本棚に追加