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その晩、篭は竹籠の中で思い悩んでいた。
彼には、茂十の悲しみが辛かった。彼は、優しい和尚のことが、とても好きになっていた。何とかして和尚を助けてやれないものかと考えていた。
しかし彼は小さな鳥で、未だに飛ぶことすらできない。和尚の死にゆく息子を救ってやることなど、到底できないだろう。
するとその時、細い金切り声のようなものを、どこか遠くで聞いたような気がした。
彼が首を回すと、いつの間にか、寝室と外を隔てる障子戸が少しだけ開いていた。
人のこぶし一つほどの隙間から月光が流れ込み、月を背にして一匹の梟が覗いているのを、篭は見た。
『やあ』
梟が言った。黒と白の斑点の毛皮が、月光の中で輝いてみえた。
『あんた、誰』
突然の闖入者に驚いた篭は、身を固くして言った。布団の中の茂十は変わらず眠っている。
『私は薊。鳥居守のお遣いで厄魂を拾いに来たんだ』
どこか愉快そうに梟は言い、篭は瞬きした。
『厄魂って?』
『病気にかかった魂のことだよ。君のいる部屋の奥に寝たきりの人がいるでしょう』
『えっ』
生物が死ぬと器から魂が出てゆくのだと、篭はどこかで聞いて知っていた。つまり、茂十の息子は今にも死のうとしているのだ。
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