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目が覚めた。
同時に目を開いていた。
木板を張った簡素な天井が見えた。彼も知っている茂十の部屋の天井だった。
篭は体を起こそうとして、全身で違和を感じた。手足の曲がり方も胴の感じ方も何もかもが違う。首が重く肩が遠い。彼の頭は枕に乗っていて、体は布団をかぶっていた。彼は人間になっていた。
恐怖に近い緊張が、全身を駆け巡った。
慣れない体を操ろうとして彼はもがき、苦労して布団から這い出た。寝巻の袖から覗く腕も足も包帯に覆われていた。彼は茂十の息子だった。
そういえば、茂十の姿が見えない。奥の部屋への襖は開け放たれているが、部屋は無人だった。よく見ると、彼の竹籠もない。
彼は必死で、しかしのろのろと、閉じられている障子戸へ這っていった。
障子戸の開け方は知っている。しかし彼は腕を思うように操れず、腰をどうしたら座らせられるかもわからなかった。不器用な指は震えるばかりで、戸の桟を掴むこともできない。
焦りを感じた篭は、鳥のように囀ろうとして噎せた。以前と同じことはできないと悟った彼は、とにかく発せる音を発した。
「あああああああ」
声は出たが、戸は開かない。上手く座れない彼は、立ち上がろうと試みた。
腕と肩を戸に凭せ掛けながら脚に力をこめる。膝が震えたが、少し腰が持ち上がった。しかしそこで、大人の人間の体重に耐えかねた障子戸が外れ、彼は障子戸ごと縁側の外へ転がり落ちた。
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