7. 宵待ちながら

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 憑き物落としをするからには、藍叡和尚にもこの世ならぬものを視る能力があるようだが、詳しく視るには集中する必要があるらしい。  和尚は喜代と渡喜を連れて、別の部屋へ移っていった。  講堂で待っている間、篭は力強い柱と梁の造りや、軒先に吊るされた灯篭の透かし模様を眺めていた。  人間はものを作るのが好きだと、彼は思う。  黙って座っていた宋十郎が、突然言った。 「和尚の影は、どんな形をしている」  篭は、宋十郎を振り返った。少し考えて、答える。 「和尚さんの影は、ほとんど見えないよ。宋十郎と似てるかも」 「そうか」  それだけ言うと、宋十郎は沈黙に戻り、柱の向こうの庭を眺めていた。  あまり時を置かず、渡喜と喜代は和尚に連れられて戻ってきた。  喜代は相変わらず落ち着いているが、渡喜の顔が穏やかに輝いて見えた。悪い話をきいたわけではなさそうである。  和尚が微笑みながら、篭に声を掛けた。 「では、次は汝を診ようかね」  和尚の顔を見上げ、宋十郎が言う。 「篭を診ていただくなら私も同席したいが、よろしいでしょうか」 「もちろん構わぬよ。では、こちらへ」  篭は立ち上がり、和尚の後を歩いた。  宋十郎は去り際に渡喜に一声掛けて、荷物を預けた。 「すまないが、見ていてくれないか」 「はい、お預かりします」  喜代と並んで座っていた渡喜は答えた。  頷くと、宋十郎は彼らの後を追ってきた。
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