都忘れ 1

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 今夜のように明るい月の晩だった。  星々の光を退け、まん丸く夜空に浮かぶ月を眺めながら、中納言家の釣殿で杯を傾けていた。  夜も深く、程よく酒も回ってきた頃、依光が悪戯っぽい笑みを口の端に浮かべて實親を見る。 「こんな月夜は気を付けたまえ。美しいものに惹かれるのは人だけではないからね」依光は水面に映る月へと向けた目を細めて続けた。 「月は日ごとに、形を変える。望月(もちづき)は、魑魅(ちみ)魍魎(もうりょう)の力を増幅させることを知っているかい」 「なんと。なぜそんなことが?」 「月の満ち欠けは人の心にも作用するという。月が膨らむに従い、その作用する力が大きくなり、より霊力の高いものほどその影響を受けやすい」 「霊力……陰陽師は平気なのか」  實親のもっともな問いに、依光は小さく含み笑った。 「私たちは抑える術を知っている。少々気分が高揚するくらいのことはあるけれどね。君はないかい?」 「月を見て、気分が高揚することが、か?……そうだな……今は酒が入って少しばかり高揚しているかもしれないね」 「それは月ではなく、酒のせいだろうな」  ふふ、と笑って、依光は酒を呷る。 「月が満ちる夜は妖どもが浮かれて出てくる。気安く近寄ってきたとしても、奴らは気分屋だ。相手にしないのが一番。決して目を合わせるんじゃないぞ」
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