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 呼ばわる声が耳に届き、真白は顔を顰めた。 「どうやら、お公家さんでも止めるのは骨みてえだな」 「そろそろ話してください。一体何なのです」  慎之助の言葉尻に、どん、とまた何かが門を叩き、彼はびくりと体を跳ねさせて恐々とそちらに目をやる。 『おうおう、随分とご立腹だぜ。だからとっとと引き合わせてりゃ良かったのさ』  球体の妖が真白の周りを飛び回りながら言う。蠅を追い払うように手を振って、真白は慎之助を見下ろした。 「あんたが妹のように可愛がっていたって言った、お八重さんだがな、ちょいと良くないもんになっちまってる」 「良くないものに……、それはどうして」  本当に、心底分かっていない顔で問う慎之助を、真白は複雑な面持ちで見返す。 「……あんた、本当に気づいてないのかい」  慎之助は怪訝そうに眉を寄せて目を瞬かせ、「何を」と問い返した。  がっくりと肩を落として大仰な溜息を吐いた真白は、ゆっくりと首を振る。 「やれやれ。ここまで鈍いとは……」 「何だ、一体」  些かむっとしたように再度問う慎之助をちらりと見てから、真白は溜息と共に言った。 「お八重さんは、あんたのことを好いてたんだよ」 「そりゃあ、幼馴染なのだから」 「そういう意味じゃねえ。まったくどこまでも鈍いな、あんた。そうじゃなくて、お八重さんはあんたと夫婦になりたかったんだよ!」  声を荒げた真白をぽかん、と見返して、慎之助は「夫婦に」と呆けたように呟いた。 「まさか、本当に?」 「本当だとも。それが叶わなかったからこそ、ああやってあんたを呼んでるんだよ」  まるでその言葉に応えるかのように、どおん、と門が叩かれた。  ひっ、と引き攣った声を漏らして肩を竦めた慎之助は、恐る恐る門を見やる。 「私と、夫婦になるのが叶わなかったから、悪霊になったと……?」 「まあ、簡単に言うとそうだな」 「簡単に……では、事の次第はもっと何か理由があるということか」  真白が口を開こうとしたところで、狙ったようにまた一つ、どおん、と門が鳴った。 『ひゃはは!はっきり言ってやんなよ。お前さんが他の女と夫婦になるのが許せねえんだって!』 「うるせえな、ちょっと黙ってろ」  周囲を飛び回りながら甲高い声で騒ぐ妖に真白がぴしゃりと言うと、慎之助が驚いたように目を丸くした。 「わ、私か?」 「あ、いや、すまねえ。あんたじゃなくて……その、ここにな、見えねえだろうが妖がいるのよ」 「はあ、あやかし……妖!」  頷きながら繰り返してから、慎之助は素っ頓狂な声を上げて飛び上がる。 「あ、妖がいるんですか、ここに」 「まあな。丸い、口だけの野郎で、これがさっきからやかましくて」  げんなりとした顔で言う真白に相槌を打ちながらも、慎之助は神妙な顔つきで辺りを見回した。 「そいつが、あんたをお八重さんに会わせろってうるさいのさ」  やれやれと眉尻を下げて言う真白を、慎之助は不思議そうに見返す。 「私がお八重ちゃんと会うとどうなるのですか。いや、そもそも私にはお八重ちゃんが見えないのですが」
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