都忘れ 1

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 優雅に扇を開いた公達は、ゆらりとそれを揺らして目を伏せ、小さく微笑んだ。 『できた奥方だ』 「俺には勿体ねえって言いたいんだろ」  はは、と声を漏らして笑った實親は、柔らかく目を細めて言った。 『言って良かっただろう』 「なんでえ、分かってたような口ぶりじゃねえか」 『蔦の君なら、頭ごなしに切って捨てることはないだろうと思っていたよ』 「なんでそう思う」  眉を寄せて問返すと、實親はきょとんと目を瞬かせる。 『君が真剣に話したことを、蔦の君が信じなかったことがあるのか?』  言われて、記憶を辿ってみる。  確かに、誤魔化したり言い訳したりせず、正直に話したことを、蔦が否定したことはなかった。 「ない、な……。なんでお公家さんは分かるんだい」 『君たちを見ていれば、おのずと分かるものだ』  しれっと扇を揺らして答える實親に、真白は不可解そうに唇を尖らせた。  なんだか見透かされているようで面白くない。 「まあいいや。これでお蔦に気兼ねなくお公家さんと酒が飲めるってことだ。どうだい、ちょいと一杯」  くい、と猪口を傾ける仕草をしてみせる真白が楽しそうで、實親はつい笑いながら首肯する。 『いいね、祝杯といこうか』  真白と蔦が夫婦になった祝いと、こうしてまた二人で飲める祝いと。 「そうだな。あいにく家の中じゃ月を拝めねえから月見と洒落こめねえがな」 『望月にこだわらなければ、いつでもできるよ』 「違いねえ」  だが、もうすでに夜も深い。またにしようか、と真白は梯子段に足をかける。そこに佇む實親を振り返って、首を傾げた。 「上がらねえのかい」  すると、實親は開いた扇で口元を隠し、意味ありげに含み笑う。 『無粋な真似はしないよ』  きょとんとした真白は、けれどすぐに意図を悟り、呆れたように眉を跳ね上げた。 「もうお蔦も寝ちまってんだから、いらねえ気を遣うなってんだ」  まったく、と鼻息荒く言って上がってゆくのを、實親は『ははは』と笑って後を追った。
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