282人が本棚に入れています
本棚に追加
優雅に扇を開いた公達は、ゆらりとそれを揺らして目を伏せ、小さく微笑んだ。
『できた奥方だ』
「俺には勿体ねえって言いたいんだろ」
はは、と声を漏らして笑った實親は、柔らかく目を細めて言った。
『言って良かっただろう』
「なんでえ、分かってたような口ぶりじゃねえか」
『蔦の君なら、頭ごなしに切って捨てることはないだろうと思っていたよ』
「なんでそう思う」
眉を寄せて問返すと、實親はきょとんと目を瞬かせる。
『君が真剣に話したことを、蔦の君が信じなかったことがあるのか?』
言われて、記憶を辿ってみる。
確かに、誤魔化したり言い訳したりせず、正直に話したことを、蔦が否定したことはなかった。
「ない、な……。なんでお公家さんは分かるんだい」
『君たちを見ていれば、おのずと分かるものだ』
しれっと扇を揺らして答える實親に、真白は不可解そうに唇を尖らせた。
なんだか見透かされているようで面白くない。
「まあいいや。これでお蔦に気兼ねなくお公家さんと酒が飲めるってことだ。どうだい、ちょいと一杯」
くい、と猪口を傾ける仕草をしてみせる真白が楽しそうで、實親はつい笑いながら首肯する。
『いいね、祝杯といこうか』
真白と蔦が夫婦になった祝いと、こうしてまた二人で飲める祝いと。
「そうだな。あいにく家の中じゃ月を拝めねえから月見と洒落こめねえがな」
『望月にこだわらなければ、いつでもできるよ』
「違いねえ」
だが、もうすでに夜も深い。またにしようか、と真白は梯子段に足をかける。そこに佇む實親を振り返って、首を傾げた。
「上がらねえのかい」
すると、實親は開いた扇で口元を隠し、意味ありげに含み笑う。
『無粋な真似はしないよ』
きょとんとした真白は、けれどすぐに意図を悟り、呆れたように眉を跳ね上げた。
「もうお蔦も寝ちまってんだから、いらねえ気を遣うなってんだ」
まったく、と鼻息荒く言って上がってゆくのを、實親は『ははは』と笑って後を追った。
最初のコメントを投稿しよう!