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「そう、そこよ。あんたにはお八重さんの姿は見えねえ。何しろ幽霊だからな。普通は見えねえもんだ。だが、見えねえってことは、つまり相手の動向がわからねえってことだ」 「確かに。そこにいることすら分からないのだからな」 「そう。惚れた相手に自分の姿が見えねえなんて、悲しいことだと思わねえか」 「それは……仕方がないこととはいえ……悲しいだろうな」  真白は大きく頷いて、やや声を低めて続けた。 「――――― 見えてねえなら、見えるようにしてやろうって考えてんのが、今のお八重さんだ」 「見えるように、とは……」 「あんたを取り殺して、同じく幽霊にしちまうってことさ」  大きく目を見開いた慎之助は、ひ、と出かかった声を呑み込むように手で口を覆った。 「お八重さんの姿が見えねえあんたの方が分が悪い。何しろ、あんたは首を絞められたってわかりゃしねえんだからな」  さっ、と両手で自分の首を掴み、慎之助は恐々と真白を見返す。 「わ、私は一体どうすれば」 「さて……どうするかな……」 『だから、会わせてみろって。なるようにしかならねえよ』 「うるせえ。お前は悪霊になったお八重さんの情念ってやつを喰いたいだけだろ」 『はーはは!ご名答!とはいえ、もう随分と悪霊の域になっちまってるがなあ』  球体の半分を占める大きな口が、にい、と三日月のような弧を描く。  その言い様に真白は目を眇めた。 「だったら、今のお八重さんの情念を喰ってとっとと消えろ」 『いやだね!待ってりゃもっと膨れ上がるかもしれねえってのに。旨いもんがもっと旨くなるんだぜ。そいつと会えばな』  ひょい、と顎で示す妖を、べしん、と叩き落とした。 「そんな一か八かの勝負をして、万が一にでも慎之助さんが取り殺されちまったら目も当てられねえ!」 『やってみなきゃわかんねえだろ』 「一か八かの勝負、とは、私がお八重ちゃんに会うことか」  妖の声が聞こえない慎之助が、真白の言葉尻を捉えて窺うように口を挟む。 「ああ、そうだよ」 「――――― 店主、あなたにはお八重ちゃんが見えてるんだな」 「もちろん」 「それなら、もし私が取り殺されそうになったら、突き飛ばすなりなんなりして止めてくれるか」  意を決したような眼差しで問われ、真白は大きく目を剥いた。 「あんた、まさか」 「お八重ちゃんに会おう」 『いよっ!男前!そうと決まれば善は急げだ、さあさあ、門を開けてくんな!』  喜んで囃し立てる妖を余所に、真白は冷静な声で訊ねた。 「いいのかい」 「ああ、ちゃんと止めてくれよ、店主」  頷いた後に、情けなく眉尻を下げて苦笑した慎之助の言葉に、真白はどん、と胸を叩いてみせた。
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