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「あんたが男を見せようとしてんだ、この新見真白、しかと請け負ったぜ」 「いざ」  ごく、と一つ唾を飲み込んでから、慎之助は門の閂を抜いた。 途端。  ごっ、と重い音を立てて門に何かがぶつかり、勢いよく門を押されて慎之助が後ろにいた真白も巻き込んで尻もちをつく。 「いって!」 『慎之助様!』  八重の嬉々とした声が辺りに響き、真白は反射的に慎之助の前に出た。 『真白!』  鋭い声と共に目の前に立ち塞がったのは、見慣れた黒の直衣。大きく風に翻る袖が頼もしく見えて、思わずほっと息を吐く。 『なぜ門を開けた!』 「慎之助さんが、お八重さんに会うって言うもんでね」  肩越しに目を向けた實親が『何』と僅かに目を見開く。 「危ねえのは百も承知。慎之助さんは俺が盾になって護ってやる。俺のことは……お公家さんが護ってくれるだろ?」  したり顔で付け加えるのに、實親は眉を寄せて目を眇める。だが、小さく肩を竦めて『仕方ない』と前に目を戻した。 『それが私の役目だからな』 「またまた、それだけじゃねえだろ。頼りにしてるぜ、相棒」  全幅の信頼を載せたその言葉に、實親は振り返らないまま小さく口の端を上げた。 『まだ、邪魔をするつもり。いい加減にしてちょうだい。慎之助様は門を開けてくれたのよ。そこをどいて!』 『あなたがこの風を鎮めるのが先だ。このままでは風が巻き上げる瘴気に中(あ)てられてしまうぞ。話もできないまま慎之助殿が死んでもいいのか』  八重は目を反らして逡巡の後に不承不承頷いた。  同時に、風がぱたりと止む。  周囲を取り巻く風が収まると、彼女を包む煤のような瘴気が一段と色濃くなった。 『これでいい?』  實親は顎を引いて、すっ、と一歩横に避けた。  慎之助の前に片膝をついていた真白も、ざり、と足を引いて半身になる。その背に隠れていた慎之助の顔がまっすぐに八重に向けられた。 「……あの辺りでいいのか」 「ああ、ちょうど今、慎之助さんが見てる辺りがお八重さんの顔だ」  ひそひそと交わす間も、慎之助は目を逸らさない。そこにあるはずの八重の顔を想像しながら口を開く。 「……お八重ちゃん」  煤の膜の向こうで、八重がその厚ぼったい目を見開いた。 『私が見えるのですか、慎之助様』  喜色の滲む声音は、けれど慎之助には届かない。 「――――― 見えるのかって言ってる」 「見える、と嘘を言ってもいいものか……」  眉を寄せて迷う慎之助に、真白は一瞥してから八重に目を戻して言った。 「それはあんたの心次第だ。お八重さんに嘘を吐けるか吐けないか」  考えるように一瞬目を伏せた慎之助は、意を決したようにまっすぐに八重の顔がある辺りに目をやった。
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