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「さぁ、これからお見せするのはこの国一番の人形遣いです!」
陽気な声と騒がしい拍手の音。
その後ステージに現れたのは少しふっくらとした中年の男だった。
ふさふさとした白い髭を蓄えて目尻にはしわのある、笑顔のよく似合う優しそうな男だ。
男は小さな美しい人形を抱えていた。
それをそっとステージの床に置き、人形を吊っている糸を動かした。
人形はまるで生きているかのように踊った。
素晴らしい。
この国一番の人形遣いは嘘ではない。
素晴らしい。素晴らしい。
時間はあっという間だった。
手を痛いほど打つ。
彼は人形を抱き、頭を下げ、満足そうにステージから去っていた。
悪いことは、考えるものではない。
しかし、心奪われる芸だったのだ。
あの人形を一目見たいだとか、あの男と一言話してみたいだとか。
そこまで責められるような悪事ではないだろう。
そっと観客席を抜け出して、舞台の裏側に忍び込んだ。
重ねていうが、あの美しい人形を一目見られればよかった。あの男と一言でも話せたらそれで満足できただろう。
「上手くできなかったわ。もう少し、頑張らなきゃね」
聞こえてきたのは甲高い少女の声だった。
真っ直ぐと立ってため息を吐いているのは先ほどの美しい人形だ。
床にぐしゃりと崩れ落ちて横たわっているのは中年の男の姿だ。あり得ない方向に手足が曲がっている。
思わず、悲鳴をあげそうになった。
「もっと自然に動かせるはずだもの……」
そう言いながら少女が手をそっと動かす。
横たわった男が手の動きに合わせてむくりと起き上がる。まるで生きているかのようだ。
そっと、そーっと、その場を離れた。
人形遣いは誰だった?
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