7月(1年前)

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7月(1年前)

*大崎英人視点 プールの授業の後、給食を食べ、5時間目が保健となると、いくら良くないと思っていても、眠くて仕方がない。 あくびを嚙み殺しながら聞く授業は、来週受ける『バース性判定検査』についての説明のようだった。国が全ての中学校に義務化していて、バース性が判別できる14〜15歳になると、検査を受けなければならない。ここで、何事においても優秀なα、男女ともに子供が産めるΩ、その他大勢のβのいづれかであるとわかる。Ωには1週間ほどの発情期があるが、抑制剤の発展やら、正確なフェロモン管理機器が充実している現在、事前にΩ性だと知って対策していれば望まない番契約や妊娠を防げるらしい。これにより、数十年前は横行していたΩへの差別や犯罪は落ち着き、βのような生活ができるようになってきている。 今のところ、身体の変化は自分にも周りの友達にも感じないので人ごとだが、優秀なαを集めた進学校や発情期のΩに過保護なくらいの制度が整った高校が進路の選択肢に入ってくるため、このタイミングでわかるバース性を重要視する奴もいる。 ま、βの両親の間に生まれて、今までThe 凡人を貫いてきた俺には全く関係ない話だ。 どうせ結果はβで、予定通り近くの県立高校に行く。 そこに友達も進学する予定だし、今のようなありきたりだけど楽しい高校生活を送るのだ。 と、たかをくくっていた… 夏休みに入り、夏期講習から帰ってきた俺に、 「えいと、おかえりー。それ検査結果でしょー?一応、見とくのよ」 キッチンから母が声をかけてきた。あごで示した先にある封筒を掴み、自分の部屋に行く。かばんを床に放って、糊付けされた部分をびりびりと破く。取り出すと、でかでかとした文字で《再検査のお願い》と書かれた紙が出てきた。 思わず「…は?」と口に出してしまう。読み進めていくと、両親の性からもβのはずだが、微量のαフェロモンが検出されたため、バース科のある病院で再検査するように、とのことらしい。 高校に提出する書類に必要な情報である以上、受けない訳には行かず病院に行ってみると、あきれたことに書類と変わらない内容が医者の口で繰り返されただけだった。 「普通、βからαのフェロモンが検出されることはないんだけれども…しかし、この程度の量が変わらなければβで良いんだが…うーん…」 とぶつぶつ呟いた後、何かを思い出したように立ち上がり、ファイルを手に戻ってきた。「医者として、このような話をするしかないのは本当に不甲斐ないんだがね…」 そう話し始めた医師は、ファイルから高校のパンフレットを取り出した。そこはバース医療の先端をいく大学病院の付属高校で、αやΩはもちろん、俺のような珍しいケースは貴重な研究対象なので積極的に勧誘しているという。有名大学の付属校に特別推薦入学できると聞いた母は、能天気に瞳をきらきらさせて、 「良いじゃない!ここにしちゃいなさいよ!」 と言ってきた。 こうして、そこそこ頑張っていた受験勉強が、診断書1枚で終わり、The 凡人ロードを歩いていたはずの俺は、他校よりαもΩも多い私立男子校に進学することとなったのである。
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