横向きのひまわり

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 ようやく七月になったのに、雨。音もない雨が降り続く。教室の窓にじっとりと張りついて、滑るように落ちていく。真夏の暑さが和らぐと天気予報では嬉しそうに言っていたが、これじゃあまるで梅雨に逆戻りだ。梅雨が来れば、夏がやってくる。夏なんて、一番嫌いな季節だから、早く過ぎ去ってほしいのに。 「夏子、夏子」  窓の外を見つめながら、私は短くため息をついた。これで今日何回目だろうか。 「夏子、聞いてる? ……なっちゃん!」  急に私の横で声が聞こえてきた。いや、さっきから何度も呼んでいたような気がするんだけど、いつものバリアーで、耳に入らなかったような。友達の美穂が「なっちゃん」と私のことを呼んで、初めてバリアーを通り抜けてきた。 「……ん? 何?」 「何じゃないよ、夏休み前にやるスポーツ大会のチーム決め。どうすんの?」  ああ、と視線を黒板へと向けた。黒板には男子三チーム、女子三チームの枠が書かれていて、女子の方は一つの枠にもうクラスメイトの名前が五人書かれていた。あっというまに決まったと思われる女子のチームは、名前を見てみるといつもの仲良しグループチームだ。キャッキャとおしゃべりを始めている。男子は早々に決まったようだ。女子二チームのメンバーをどうするのか……なるほど。  男女の学級委員二人がチョークを持って私と美穂を見ている。担任の先生は教室の扉に背中をつけ、腕を組んで目をつむっている。なんなのよ、昼寝でもしてんの? 「今回はソフトバレーだよ。チーム戦だからさ、ちゃんと考えないと」  そう。今年のスポーツ大会はソフトバレー。バレーと違って柔らかいボールを使う球技だ。……ソフトバレーなんて、バレーって感じしないじゃん。ボールが柔らかいなんて、どこ飛んでいくのかもコントロールがきかせづらい。 「夏子はバレー部だし強いでしょ? それで、パワーバランスを考えてさ……」  美穂が振り向くと、美穂に隠れるように立っていた二人が顔を出した。鈴花ちゃんと加奈ちゃん。もじもじして、下を向いて、声も出ずに口を動かす。  でたよ。クラスで一番おとなしい二人組。ついでにこの子たち、体育の授業でいつも転んでばかりいる。「あの、えっと……」「その、もしよければ」  はっきり言ってくれ。私と美穂のチームに入れてくれってさ。そう言いたいんでしょ。
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