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「……別になんでもいいよ」
時間切れ。耐えきれなくなったから、もうこっちから言ってあげた。二人が互いに顔を見合わせて、表情を明るくする。
正直、足手まとい。
「なら決定だね!」
美穂が学級委員に向かって手で丸を作る。チョークの音が聞こえ始めた。
「ありがとね」
にっこりと微笑んできた鈴花ちゃんが、続けて言う。「夏子ちゃん」
「夏子っていうの、やめてくれない?」
ぴしゃりと出た言葉は、自分でも冷たくてそっけない口調だと思えた。
「わ、わかった……橘さん」
一瞬の微笑みが消えて、鈴花ちゃんのもじもじスタート。私はまた雨の降る外を眺め始めた。……『橘さん』……そういうことじゃない。私はただ下の名前で呼んでほしくないと言っただけ。
「な……夏子は、バレー部で夏の大会のレギュラーに選ばれたんだって! 心強いよ!」
美穂が声のトーンを上げて、鈴花ちゃんと加奈ちゃんに言ってしまった。
「そうなんだ!」「すごいね!」
美穂のフォローのおかげで、空気の温度が一気に上がったようだ。「夏子はね、小学生の時からバレーが上手で……」「そうだったんだね」「だから大丈夫、一緒にがんばろ!」この子達の温度帯に、私はいない。
「別に……」
小さくつぶやいた私の言葉は、楽しそうな声にかき消されてしまった。
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