横向きのひまわり

4/76
前へ
/76ページ
次へ
 そう。私は夏休みにやる地区大会のレギュラーに選ばれた。しかも昨日の部活の時間に、みんながいる前で顧問の先生から直接言われたのだ。三年生の先輩たちにとっては、中学校最後の試合。三年の先輩たちは数が少ないから、誰が地区大会のレギュラーに選ばれるのか、下級生たちの話題になっていた。バレー部はチーム戦ということもあって、正直みんな仲良い方だ。私も部活での友達は多い方だから、嫉妬とかいがみあいとか心配していない。でも、三年生に混じってレギュラーになったのは、私だけだった。めっちゃめちゃ嬉しかったから、飛び跳ねて喜んだけど、今考えると他の子達から何を言われるのかわからない。いや、問題は実はそこではない。  小学校から始めたバレーだけが、お姉ちゃんに勝てる、唯一の武器なのに。  毎日遅い時間まで残って自主練習をして、レギュラーをとって、お母さんに報告しよう。多少は褒めてくれるかも。そう思って頑張っていた。  叶ったと同時に打ち砕かれた。  昨日部活が終わって、急いで走って家に帰った。なんて言おうかな。「バレーで大会のレギュラーに選ばれたよ!」「『橘は努力家で、実力もあり、将来が有望だ』って先生が言ってくれた!」ひさしぶりに嬉しくって、舞い上がって、幼い頃の自分に戻っていたような気がした。玄関の扉を開けて、家の中に向かって叫ぼうとした時だった。 「春奈、すごいじゃない!」  いつもの甲高いお母さんの声が響き渡った。 「高校の期末テストでこんな高い点数ばかり採るなんて、ほんとに春奈は優秀ね!」  嬉しそうにお姉ちゃんが笑う声。「今回はちょうど勉強したところばかりが出ただけだよー」「またそんな謙遜しちゃって。あんなに頑張ってたんだもの、出るに決まってるよね」「でも私、体育は苦手。筆記のテストではよくっても、今学期の成績はちょっと心配かな」 「大丈夫よ、春奈なら。先生だってちゃんと見てくれてるわよ」「私も夏子みたいに運動神経よかったらなー」「十分よ。運動神経がいいだけじゃ、なんにもならないわ」  そこに、私の入る余地はなかった。扉を開け広げたまま、某然と立ち尽くした。  ……またお姉ちゃんが褒められる。
/76ページ

最初のコメントを投稿しよう!

76人が本棚に入れています
本棚に追加