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 きちんとお礼が言えなかったことも手伝って、真幸の姿を捉えると目で追うのが僕の日課となった頃、じりじりと灼けつくような激しい夏がそこまで近づいていた。細い細い接点はもう切れそうなくらい細くなっていて、お礼を伝える勇気すら出せない僕を嘲笑うかのように時はどんどんと過ぎて行った。  その接点が不意に繋がったのはいつかのセリフ、 「おい、チビすけ、大丈夫か?」 だった。今度は不良に絡まれて助けられたわけではない。ただ暑くて、体力がない僕が眩暈に道端に蹲ってしまっただけのことだ。 「だから僕はチビすけじゃないって」 げっそりと覇気のない声で答えれば、 「ほらよ」 と、首の後ろに冷たいペットボトルが添えられた。なかなか気持ちいい。 「熱中症になる前に飲んでおけよ」  そう言いながら真幸はまだ立てない僕の横にしゃがんで煙草に火をつけた。せっかくだから有難く飲み一息ついたころ、自分が自分の身に何とかかかる程度の小さい影の中にいることに気が付いた。隣にはあちぃと先程から煩い不良が襟元をパタパタとしていた。  ああ、この人、好きだなあ。  不意に意識して、顔が赤くなるのを感じた僕は俯いたまま 「ありがとう」 と呟いた。この間言いそびれていた言葉と、今日はまた助けてくれた事と、言葉に込めながら。
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