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 僕が霧島(きりしま)真幸(まさゆき)と知り合ったのは、満開の桜が心を癒してくれる春だった。  僕と真幸の接点なんてただ学校が同じって言うだけのすごくあやふやなもので、しかも僕は真幸のことを一方的に知っているけれど、真幸は多分僕のことは知らないだろうというくらいの曖昧さ。そんな細い細い接点がピンと繋がったのはある意味奇跡と言っていいのではないかと思う。それとも、桜の見せた幻だったのだろうか。  霧島真幸は僕の通う学校ではとても有名な人だった。去年入学してまず何を覚えたかと問われれば誰しもが霧島真幸と言うだろう。進学校でもなければ不良校でもない極々普通の学校。そんな中に獰猛で界隈で有名な不良がいればそれは明らかに異質で、だからこそ僕らはその名前を頭に叩き込んだのだ。それでも一年平穏無事に過ごし、二年に上がり、忘れた頃に細い細い接点が繋がったのだ。  僕は子供の頃に大病を患ったせいで、発育が同年代の人よりも若干悪い。身長も低ければ筋肉もつきにくいせいで比較的華奢。正直絡まれやすい容姿をしていることは否めまい。お察しの通り、真幸との接点は不良に絡まれた僕が助けられるというどこにでもありそうなシチュエーションだった。何人かの不良を一人で蹴散らかした真幸は、僕にとって大きくて頼もしいヒーローに見えた。 「おい、チビすけ、大丈夫か?」 と問われるまでは。結構小さいことを気にしていた僕は、怖いとかお礼を言わなきゃとかいろんな感情を置き去りに 「僕はチビすけじゃない!!」 て声を高々に宣言して走り去った。もちろん後ろで呆気にとられた真幸が一瞬後には大笑いしていたなどまったく知らない。
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