ラスト・ファイト!

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「ふー……」俺は大きく深呼吸をする。  俺達の周りにはこの戦いを見守る観客の群れ。  彼らは(はや)し立てるように声を張り上げながら天に向かって腕を激しく突き上げ続ける。  俺達の戦いは、これが三度目であった。  一度目の時は俺の圧勝、二度目の戦いは奴が俺の動きについてこれるようになってきたのか双方痛み分け、所謂(いわゆる)引き分けという結果となってしまった。  正直云って奴のこの成長には驚いた。  この短い期間で俺と同等のレベルにまでその技を磨きあげるとは、やはり若さゆえの力なのか。さすがに熟年に差し掛かった俺では、ここまで短期間での成長は望めないであろう。  今回が三度目の正直と云うわけではないが、俺達の宿命的な戦いに決着をつけることになった。 「この勝負、負けるわけにはいかない!」俺は大きく構える。奴の体に絶対に俺には勝てないという恐怖を植え付けてやるのだ。  白色の空手着に黒帯。それが俺のファイティングスタイルである。  奴は無言のまま、激しく華麗なフットワークで俺の動きを翻弄(ほんろう)しようとしているようだ。 「そんな小手先の動きで俺の攻撃をかわせると思っているのか、青いな!」俺は鼻で笑いつつ軽いジャブを繰り出した。  初めの一発は見事に決まるが、奴は見事に俺の死角に回り込み下から上突きを繰り出した。その拳が俺の脇腹に食い込む。 「畜生!」俺は派手に後ろへジャンプした。しかし、奴の攻撃は()まない。  俺の顔面を目標に飛後ろ回し蹴りを繰り出してきた。  俺はその場にしゃがみ込みその蹴りをかわし、奴の蹴りが空振りに終わり着地したところを狙い、奴の顔面にハイキックをお見舞いした。見事にヒットし奴はフラフラ状態であった。  ここで、俺が長年苦労して体得した得意技『虎砲拳』を奴の体にぶちこんだ。  「うわー!」奴は苦痛に満ちた大きな声を挙げながら宙に弧を描き数メートル飛んだ。 「KO!!」レフリーの声が響き渡る。 「うわーん!負けたー!」幸太郎は、大泣きしながらゲームのコントローラを床に投げつけた。 「もう、お父さん!また大人げないことして!相手は子供なんだから手加減しなさい!!」嫁の圭子が泣きじゃくる幸太郎を宥めながら鬼のような形相で怒る。 「い、いや、子供の頃からこういう厳しさも教えといたほうが……」 「うわーーーーん!!」幸太郎が更に激しく泣きじゃくる。 「お父さん!!!」 「すいません……」俺は正座しながら頭を下げた。  結局、最強は奥さんでした。
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