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バイト先はファミレスだった。ウェイトレスという高校生の定番。社会も学べて一石二鳥。バイト先の男性が私の連絡先を聞いてきたので、教えたら今度デートすることになった。軽薄そうなやつだが、練習くらいにはなろう。 「あいつあ、やめとけ」 「……そして、また何故いる」  思わず押し殺した声がでた。速峰がモップの柄にもたれながら半眼で睨んできた。 「推しのバイトくらい経験しておきたい。フォローもできるだろ」 「なんの」 「こいつみたいに、ちょっかいをかけてきそうなやつをはじく」  顎で私のもっている携帯をさした。ちょうど、連絡していたところだ。 「私が女子しかモテなかったのは、お前のせいでもある気がする」 「俺がはじいていたのはダメそうなやつだけだぞ。お前、マニアックなやつしか言い寄ってこないもん。少年にメイド服着せたい奴。わかるだろ、変態はだめだ、変態は」 「私は少年ではないし、ダメでも付き合ってみないとわからないじゃないか。速峰は彼女を何人も作っておきながら、何を言う。中学校生活、男子とまともに会話したのはお前くらいだった」 「ふつうの男子はお前がかっこよすぎて疲れるらしいぞー」  影でそんなこと言われていたのか。早く知りたかった。自分では普通にしていたつもりだ。 「宝塚の人ですかって、よく言われるのだかそれも関係しているのか」 「だろうな」 「……こじらせる前にもっと早く教えてくれ」 「こじらせている自覚あったのか」  ベルが鳴った。ランチタイムは終わっていた。それでもちらほらお客様は見える。待機していた私は、客の元へ飛んでいく。接客は苦手だったが、マニュアルがあるので何とかなりそうだ。 「いらっしゃいませ」  スーツを着たサラリーマンっぽい二人だった。外回りが終わったところだろうか。笑顔を張り付けせて接客する。二人のうち、一人がかわいいねと言ってきた。  礼を言ってメニューを聞いて立ち去る。  かわいい。実はあまり言われ慣れてない。うれしい気がする。 「笑顔になってるなー、おじさんに言われてうれしいのか」  速峰はキッチンのモップがけを丁寧にしながら、言ってきた。見ていたのか。 「うれしいものだ。かっこいいよりうれしい」 「そうか。頼めば俺が言うのに」 「お前が? なぜ?」  目を見開いた。「かっこいい」は聞きなれている。が、こいつの口から「かわいい」は聞いたことがない。 「……もういい」  すねたように無言になった。何か気に障ることを言っただろうか。むしろ、気に障るのは私の方なのだが。  釈然としないまま、接客に集中した。
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