【② 優、風邪を引く】

1/1
前へ
/5ページ
次へ

【② 優、風邪を引く】

 翌朝になり、優の苦しそうな声で有李斗は目を覚ました。  「どうした?」  「頭が痛いの…」  泣きそうな顔で有李斗に頭痛を訴える。  「そのまま寝ていろ。今、頭を冷やすものを持って来るから」  有李斗は台所へ行き、頭を冷やすものとミネラルウォーターを持って来た。  「ほら、おでこに乗せて。水も持って来たぞ。気持ちは悪くないか?」  「うん。それは大丈夫。頭が痛いのと、ちょっと暑いかなあ」  「そうか。寝起きだから暑いのかもな。先生が起きたら診てもらおうな」  有李斗は、優のおでこや首を触る。  【確かに、少し熱いな…】  優の体温がいつもよりも高く感じる。それに、全体の顔色は悪いのに、ほんのり赤い部分もある気がした。  「先生、泊まったの?」  優は、受け取ったミネラルウォーターを飲みながら、涙目で有李斗を見ながら聞く。  「ああ。子供たちを寝かせに行ったまま寝てしまってな。疲れていると思って、そのまま起こさなかったんだ。だから翔もいるぞ」  「そっか。じゃあ、起きなくちゃ」  先生と翔もいると聞いて、優は朝食の支度をしなくてはと、上半身を起こそうとした。それを有李斗が止める。  「ちゃんと寝ていろ。無理はするな。それに、まだみんな起きていないから」  「でも…。――そう言えば、有李斗は何時頃寝たの?」  「俺は4時頃か。3時過ぎまで大と多田もいたからな」  「えぇ~。ごめんなさい、起こしちゃって。まだ8時だよ。もう少し寝て。僕、起きるから。有李斗、ちゃんと寝て」  有李斗の話を聞いて、優は改めて身体を起こす。  「俺は大丈夫だ。気にするな」  「う~ん。気にするよ~。さっ、有李斗、寝て」  優は頭痛が酷いのか、時折、顔をしかめつつ、ベッドを降りようとしながら座っている有李斗の腕を引っ張る。  「分かった。寝るから。だから、お前も横になれ。俺と一緒に寝よう」  ベッドから降りようとする優を、有李斗は自分と一緒にベッドの中へ戻し、腕の中へ収めて横になった。  「頭痛、酷そうだな。こうやって静かにいろ」  「でも…」  「でもはなし。俺と一緒に寝てくれ」  そう話す有李斗の表情があまりに心配そうなので、優は言う通りにして、そのまま目を閉じた。  ―――しばらくして、リビングの方では翔が台所に立ち、子供たちと先生の食事を作り、食べるようにしていた。翔は、先生との暮らしで随分と家事ができるようになっていて、優と多田ほどではないが、料理もできるようになっていた。  子供たちは自分たちが知っている翔ではなく、優と同じように何でもできるようになっていたので、『凄~い』と何度も言って喜んでいた。  食事のあと、子供たちは先生と遊び、翔は掃除機を軽くかけ、そして勉強をしていた。しかし、先生と翔が少し目を離した隙に、月斗が有李斗と優のいる寝室へ行っていた。  「うんしょ。僕もここ~」  有李斗と優の間に入ろうとしたが、有李斗が優を抱きかかえるようにしていたので間には入れず、2人の上に乗った。  「ママ~」  優の顔の所に自分の頬をくっ付けて優を呼ぶ。  「アハハ~、ママ~」  「う~ん。ん?月斗?」  寝起きと、治まらない頭痛でボッーとしながら、重みのある自分の上を見ると月斗の姿があった。  「月ちゃん、重いよ~。あとパパが起きちゃうから、しっ~だよ。だから、こっちにおいで」  自分と有李斗の上に乗っている月斗を有李斗と逆側に入れ、声を掛ける。  「月ちゃんはご飯食べたの?」  「うん。翔ちゃんが作ってくれた~」  「そっかあ。今は何時かな?」  頭元にある時計を見ると、お昼を過ぎていた。  「えっ?もうこんな時間?急いで起きなきゃ」  月斗には普通に装うも、頭痛は治まっていない。身体を動かす度にズキズキと脈を打っているようだった。指でこめかみを押さえる優を見て、月斗が心配そうに顔を覗き込む。  「ママ、頭痛い?」  「うん。そうなの…」  「先生呼んでくる~」  優の状態を知った月斗は、ベッドから降りて先生を呼びに行った。そのまま先生が来て話をしてしまうと有李斗が起きてしまうので、痛みに耐えながら優もリビングへ行った。  「お、おはようございます…」  優が小さい声で挨拶をしながらリビングへ行くと、月斗から話を聞いた先生が優の傍まで来た。  「優くん、顔色随分と悪いねぇ。頭痛酷いの?」  「うん。でも病気じゃないから。昨日…、お酒飲んじゃって…」  『アハハ』と言いながらも、空笑いだと分かる表情で返事をした。先生は優をソファーへ寝かせ、自分のカバンから聴診器などを出して診察を始めた。その状況を月斗と李花はジッと見ている。  「う~ん。あんまり飲んでないと思うんだけど…。ただ、有李斗のお酒だったから」  優は先生に憶えている事を話す。  「そう。ちょっと待っててね」  先生は優に待つように言うと、ポケットからスマホを出し、大へ電話をする。そして、優がどのくらいお酒を飲んだのかを確認した。  「うん。分かった。ありがとう。本人もあまり飲んでいないって言うんだけど、それにしては顔色がかなり良くないんだよ。うん。その時は頼むよ。じゃあ」  大との電話を切り、先生は優の方へ向き直した。  「大も、ほとんど飲んでなかったって言ってたよ。でも、水割りの濃いのを飲んだって言ってたから、それもあるのかなあ。しかし珍しいよね。優くんがお酒飲むなんて」  「うん。昨日はみんなを見てたら飲みたくなったの…」  先生にお腹やら背中を聴診器で当てられたり、首筋を撫でられながら、優は昨日の事を思い出していた。  「そっか。じゃあね、今、色々支度をしてくるから、ここで寝ててね。翔くん、優くんの頭を冷やすものを持って来てよ」  先生は優を見ながら診断を考えていた。頭痛だけなら二日酔いで気にしなかったが、飲んだ量が少ないわりには顔色が悪すぎる。それに幾分か喉も赤い感じで身体も熱い気がした。そう言えば、優がここに来てから一度も病気をした事がない。――気になったので点滴を取りに行きながら採血の支度もした。今までは研究所で何か予防薬を打っていたか服用をしていて、それのおかげで病気をしなかったのかもしれないと思った。今は子供たちがいて保育園を出入りしている。保育園へ行くのにも1階の診察室の前を通って行く。この病院は他の病院とは違い、感染予防のための空気清浄にも最新の設備をしているが絶対ではない。その辺りを考えただけでも風邪くらいは引きやすくなる。ましてや外へ出る事も増えた。それに、ずっと何かしらの大きな出来事があり、そろそろ病気の1つでも起こすのもおかしくない事に先生は思った。寧ろ、無菌に近い研究所育ちの子が2年以上も病気をしなかった事が不思議なくらいだった。それを考えると、採血は優だけではなくて子供たちも翔もした方がいいと思い、4人分の支度をした。  「ただいま~。――優くんさあ、ここに来てから風邪とか引いた事なかったよね?」  「うん」  「もしかしたらねえ、二日酔いっていうよりも風邪かもしれないよ。とりあえず今はハッキリと診断言えないから、水分を摂れるものだけを入れるね。少し様子を見て、その都度対応していくね。――翔くんたちはさあ、今までどうだったんだろう。外で暮らしてた時に病気とかした?」  「ううん、してない」  「そっか。今日は採血させてね。それで序でだから、3人とも血を採らせてね」  先生の話で翔は頷いていたが、月斗と李花はじっと固まっていた。そのあと、月斗は理解をしたらしく、走って寝室の有李斗の所へ行ってしまった。すぐに追いかけようにも今の優にはそんな力がない。しかし、自分のものを見せてしまうと絶対に月斗が採血をしないと思ったので、優はゆっくりとソファーから起き上がり、寝室へ行った。  「月ちゃ~ん」  優が小さい声で呼ぶと、月斗に起こされた有李斗がベッドに座り、月斗を抱っこしていた。  「優、月斗が注射をイヤがっているんだが、月斗どうかしたのか?」  「う~ん、僕がね、風邪を引いたみたいで。だから先生が僕たち4人の採血をするって言ってね。それを聞いたから、月ちゃん逃げてきたの」  優は有李斗にそう答えていると、めまいを起こしたのかフラッとして膝を着いた。  「おい。――月斗、ここで少し待て。優、大丈夫か」  ベッドで月斗を抱っこしていた有李斗は、慌てて優の傍へ寄る。  「うん。ごめんね。何かクラクラするの…」  優を抱きかかえて、ベッドへ寝かせ、リビングにいる先生を呼んだ。  「有李斗くん、おはよう。大きな声で呼んでたけど、どうかしたの?」  有李斗に呼ばれた先生は、朝の挨拶をしながら寝室へ入って来る。  「おはようございます。優がふらついて」  「うん。どうやら風邪を引いたみたいなんだよ。そこに軽い二日酔いが入ったみたいだね」  「風邪ですかあ…」  「うん。ここに来て随分経つけど、研究所で無菌に近い生活をしていたのに病気しなかったでしょ?おそらく、病気をしないように何かを服用してたとかだと思うけど、それにしても2年以上も、しかも病院の上で生活してるのに風邪1つ引かなかったっていうのは不思議なくらいだよ。きっとさ、やっと落ち着いた生活になってきたから、色んな疲れが出たんだと思うんだ。優くんにとって、この2年って全てが初めての連続だったろうし、住む所も今まで経験した事のない感じなわけでしょ?そこに有李斗くんの事や子供たちの事で、僕たちよりも大変だったと思うんだよ。本当に今まで元気だったのが不思議なくらい。――でね、翔くんも子供たちも似た状況だと思うから、ここで軽い検査をしてみようと思ってね。それを準備していたんだ。まあ、それで月斗くんが逃げてきたというわけ。優くんはそれを追って来たんだよ。ね?」  先生は、優の横に座る月斗の背中を擦り、顔を覗き込みながら有李斗に説明をした。  「そうだったんですね。月斗の事は分かりました。問題は優ですね。これ以上、酷くならなきゃいいんですけど…」  有李斗は優の横に座り、おまじないをするかのように、おでこに軽いキスをした。  「あっ、有李斗ダメ。風邪が移っちゃう。月ちゃんもママの所にいると移っちゃうからパパとリビングへ行って?」  優は2人に移る事を気にして、寝室から出るように言う。それでも有李斗は動かずに優の頭を撫でていた。  「俺は大丈夫だ。それよりも、ちゃんと先生に診てもらって早く良くなってくれ。――そして俺を構ってくれ」  最後は先生と月斗に聞こえないように、優の耳元で小さい声で言った。  「うん」  優は少し恥ずかしそうに返事をするも、やはり頭痛が酷いのか、返事をしたあと辛そうに顔をしかめた。  そして、電話で聞いた大と多田は心配だったらしく、有李斗宅に来ていた。多田はリビングの翔を手伝っていた。大は先生もいる寝室へ来て、優の状態を診た。  「おう。優、大丈夫か?」  「あっ、大。ごめんね。みんなに迷惑掛けちゃった…」  「迷惑なんて思うな。それよりさ、お前、病院の方で2,3日入院するか?ここだと少しでも良くなったら動き出しそうでよ。それに子供らもいるしな。個室へ入れてやるから、そっちでゆっくりしろよ」  大がそう言うと、優は『ふ~ん』と言って、回らない頭で考えていた。  「でも、有李斗が大変になっちゃうから…」  頑張って答えを出せた優だったが、いつもよりも小さくて弱い声で言っていた。  「そんなもん、俺たちもいるから。な?」  「う~ん…」  迷う優の傍で有李斗も考えていた。しかし、分かってはいても自らそうした方がいいとは言えなかった。同じ空間から優がいなくなってしまうのが不安なのだ。そして、優は自分の傍にいる有李斗を見ると、何を考えているのかが分かる。それを見て有李斗を呼んだ。  「有李斗?」  優に呼ばれた有李斗は、不安そうな表情を隠しながら返事をする。  「ん?」  「ううん。――大、やっぱりここがいい。1人で病院にいるのイヤ。お家の事はみんなにお願いをしてちゃんと寝てるから、ここにいたい」  有李斗の不安を隠す表情を見た優は、大にそう言った。優の答えを聞いた大は、有李斗の方へ視線を向けたが、有李斗は大の視線を避け、優の方を向いた。それを目にした大は、『ほんの数日くらい1人でいられないのか?』と言おうとしたが、優と同種になった時の事などを思い出した。それに他国の研究所にいた時も、その時と同じようになったと言っていた。それらを考えると、今、優から離しては有李斗も体調を崩すかもしれないと思った。又、先日のように羽や耳などが仕舞えない事態になりかねないと思った。  「分かった。じゃあ、ちゃんと寝てろよ?」  「うん。ありがとう。ごめんね、わがまま言って」  「いや、ここんちは、お前が留守にすると何が起こるか分かんねえからな。あんまり1人だけ別にするのも危ねえもんな(笑)」  大は、少し揶揄うかのように言った。口では優に言っていたが、視線は有李斗へ向けていた。  「おい、何で俺を見るんだ?」  自分に視線を向けられていた事に気付くと、有李斗は大にムスッとしながら言うが、間違った事を言われていないだけに、それ以上の事は言えなかった。有李斗に言われた大はニヤニヤしているだけだった。  そのあと、優をはじめ、翔と子供たちと、話の流れから有李斗も採血をした。月斗が大騒ぎをした以外は問題なく終わり、優が回復するまでは翔と多田で有李斗の家の事をする事になった。  優には水分補給用の点滴をしつつ、風邪薬を飲ませた。少し経って、薬が効いてきたようでスヤスヤと眠り始めた。有李斗は、優が眠るまで握っていた手をそっと放しつつも、そのままそこにいる事にした。机の上に置いていた本を持ち、イスを持って来て座り、寝ている優の様子を見ながら本を読んでいた。  「う~ん…」  暑いのか、優が汗をかき始めたようで、唸りながら寝返りを打っていた。傍にあるタオルで有李斗は優の顔と首筋の汗を拭く。  【早く良くなってくれ】  優がこんなにも苦しそうにしているのに何もできず、傍にいるだけしかできない自分を、有李斗は恨めしく感じていた。  何度か簡単に汗を拭いていたが、着ていたパジャマも濡れていたので、優の耳元で声を掛けながら起こして着替えさせる事にした。  「優、汗をたくさんかいているから着替えような」  「ん~。うん。ありがとう。でも自分で。――ずっと傍にいてくれたの?移っちゃうから傍にいたらダメ…」  自分の世話をする有李斗の手から着替えを取り、部屋から出るように、有李斗の腰の辺りを押した。  「俺は大丈夫だ。それより早く着替えろ。汗で冷えてしまう」  有李斗は、優の手を腰から放させ、『いいの。自分で』という言葉を無視して着替えさせた。そして、傍に置いておいた飲みものを与え、寝かせた。  「ありがとう。もう大丈夫だから、お部屋から出て」  優は、有李斗に早く部屋から出るよう、そればかりを言う。  「大丈夫だと言っている。それに俺が傍にいたいんだ」  優のおでこにキスをして頭をポンポンとしたあと、有李斗はイスに座り本を読み始めた。  優は『うん』とだけ言って、また目を閉じた。  ―――翌朝には優の熱は下がっていたが、大との約束もあったので大人しくベッドにいた。そのあと2日程、みんなに甘えさせてもらい静かにいた。  数日、家の事をやっていなかった優は、起きてからはいつものように家事を熟していた。ずっと泊まってくれていた先生がいるので、朝食は洋食と和食の両方を作る。冷蔵庫には多田が色々と買い置きをしてくれていた。おかげで、材料もあり困る事はなかった。朝食の支度をしていると翔が起きてきた。  「おはよう。もういいのか?」  「おはよう。たくさん迷惑を掛けちゃってごめんね。もう大丈夫。元気になったよ」  手で拳を作り、腕を曲げ、上下に揺らして、優は元気になった事を見せた。  「迷惑なんてしてない。辛かったのに何も代わってやれなくてごめんな」  翔は、悲しそうな目をして優に言う。  「えっ?そんなあ。ただの風邪だよ?何かの実験じゃないから翔が深刻に考える事ないのに。それに、家の事とか色々やってくれたんだもん。ありがとう。だから、そんな顔しないで?」  優は、翔がそのように思っているとは思わなかった。どう反応した方がいいのか迷ったが、思うように隠さずに言っていた。  翔もまた、どんな風に言葉を掛けていいのか迷った。研究所にいる時の優を知っているだけに、単なる風邪でも、あの場所で一生分よりも多くの苦しみを味わっていた優には、もう苦しいとか辛いという思いをして欲しくなかったのだ。発した言葉の内容もストレート過ぎて、他の人に聞かれたら変に思われるかもと考えたが、言葉を選ぶ程、言葉数を知らないので思ったように言っていた。  「ごめんな。俺、きっと変な言い方してるんだろう?困った顔してる…」  「ううん。翔は、研究所の時の僕を知ってるから、そう言ってくれてるんだよね。でも、そんな格好いい事を言われたって有李斗が知ったらヤキモチ妬くかな(笑)。エヘヘ」  笑いながら話す優だったが、有李斗の反応の話を聞いて、翔は本当に困っているようだった。  「それは困る。聞かなかった事にして欲しい…」  そう、優にお願いをした翔だったが、それを有李斗は聞いていた。  「いや、俺はもう聞いたぞ(笑)」  だいぶ前から優と翔の会話を聞いていた有李斗が、ニヤニヤしながら傍へ来た。  「有李斗、おはよう。何日もごめんね。有李斗は大丈夫?何ともない?僕のが移っていなければいいんだけど」  「俺は大丈夫だ。――それより、翔に何か随分と格好いい事を言われていたな(笑)」  有李斗は、優と翔の2人をもう一度見てニヤリとした。  「いや、えっと…」  有李斗に怒られるのかと思いながら翔はオドオドしていた。そこの間に優が入って説明をする。  「翔はね、研究所の時の僕を知っているでしょ?だから僕に、苦しいとか辛い思いをさせたくなくて、自分が代われなかったって、そう言ってくれたの。有李斗が思う変な感じじゃないの」  「そうか。まあ、正直に話してくれたのは嬉しい事だが、聞かされた俺は…。やはり、他の奴に先を越されたと思うと面白くないな」  優を自分の懐に入れ、ギュッと強く抱き締めた。それは明らかに翔に見せ付けるため。軽く視線を翔に向けてから優をジッと見てキスをした。  「ん…。有李斗、翔の前…」  「ああ。だからだ。許せ。――しかし、翔があんな格好いい事を言えるなんてな」  翔に見せ付けたあと、翔の頭をポンポンとしながら言った。  「言葉をあまり知らないから。有李斗さんがイヤな思いをする言い方をして、ごめんなさい」  翔は、有李斗にすぐに謝った。  「ふざけて言っているだけだ。お前が家族として言っているのは分かっている。そんなに正面から受け取るな。大のように笑って済ませてくれ」  あまりにも翔が真面目に話を取るので、有李斗は困った顔をしながら翔に言った。翔は有李斗からの言葉に『うん』とだけ返した。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

76人が本棚に入れています
本棚に追加