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ホイッスルが空気を裂く。
ある者は目線をあげ、ある者は肩を揺らし、ウォームアップを終えてベンチに集まっていた両チームがエンドラインに整列する。
コートの端と端。
もう一度鳴ったホイッスルに選手は歩を進め、距離が縮まる。
正面に立ったネット越しに、由佐と八城の視線が出会った。
強さが凪いだ瞳と、強くあろうと力を込めた瞳。異なる色の奥底に同じ熱を見つけて、一瞬。けれど確かに、二人は小さくうなずき合った。
勝てるか勝てないか。負けてもいいかだめか。そういうことではない。
誰かに期待されるから、その先に何かがあるから。そんなものでもない。
一度でも多くボールを繋ぎたいから。一秒でも長くコートに立ちたいから。
楽しいから。
負けられない戦いの中身は、いつでも単純。
負けたくない。ただそれだけ。
ネット下をくぐった手がしっかりと握られて、二人の間に風が吹いた。
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