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負けられない戦いなんて心底馬鹿らしいと思う。負けたら命を取られるわけでも、人生が終わるわけでもない。
高校生活の成果だ。どこそこの監督が注目している。優勝が、その先の試合が、将来が。そう口にする人間はいる。
それが何だと言うのだ。そんなものは周りが勝手に押し付けてくるだけで、俺が賭けているわけではない。
それをいちいち騒ぎ立てることに、何の意味があるのか。
「はは、大丈夫かな、向こうのキーマンは」
吉岡がちらと目で指した先、強ばった顔のセッターがキャプテンに背中を叩かれていた。
「──どうでもいい?」
にひゃりと細められた目はいたずらに笑んで、俺の答えを待っている。
「油断するなよ」
「とーぜん」
鋭くなった視線は嗜虐を孕む。こいつも大概性格が悪い。しかし普段通りの吉岡だ。大丈夫だろう。
いつも通りの試合ができる。
何かを賭けないとできない試合ならしなければいいのだ。それらのために練習をしているのではない。
何を言われても言われなくとも、自分の意思でやっているだけ。
全ての試合が同じだ。練習であっても、負けたら終わりのトーナメントの最後、決勝戦であっても。
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