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ひそめられた声、軽やかな笑い声、ちらちらと投げられる視線。ざわめきの大波に襲われる感覚を意識の外に追い出して、目の前の動作への集中に努める。
落ち着いて。大丈夫。
口の中で呪文を転がして、何度目か分からない深呼吸と一緒にゆっくりと胃に流し込む。
あの注目のほとんどは向こうのチームへ宛てられていて、誰も僕に意識を置いていない。そんなことは分かっている。
けれども臆病という名の生き物はやっかいだ。物心つく前から一緒にいるのに、未だ飼い慣らされてはくれない。
負けられない戦いね。
何とか平常を刻んでいた心臓が跳ねる。どこからか放たれた声に、ぐ、と息が詰まった。
わざわざそんなことを言わないでほしい。
「八城」
「いっ、た」
「呼吸しないと死ぬよ」
沢村にばちんと背中を叩かれて、僕は思わずじと目を向けた。
「死なない」
「特殊だなあ、お前の身体」
「そういうことじゃない」
「はいはい」
からりと笑うキャプテンに、僕はゆっくりと息を吐いた。
負けられない戦い、なんて軽々しく口にしないでほしい。そんなことは今ここに、この床の上に足をつけている人間が一番よく分かっている。
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