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 入部した頃は、こんな風に日の目を見ることなんてほとんどなかった。  公立高校でエース級の選手を集められるわけでもない。最初はコーチもいない、練習試合ができる学校もほとんどないような有様で、学べる練習一つが、試合の一つが、どれだけ貴重だったか。  負けていい戦いなんてない。それがたとえ仲間内の紅白試合であっても、こんな、一瞬でも気を抜いたら手が震えそうになる、決勝の試合であっても。 「笑ってたぞあいつ。負けられない戦いなんて馬鹿らしーとか思ってそう」 「余裕な試合だって?」 「いけすかねー」  加賀谷たちが井戸端会議よろしく声をひそめて、飄々とした顔でストレッチを続ける相手のエースを見ていた。 「気にしない暴言吐かない大人しくやる」 「はーい」  血気盛んな後輩たちを一声で収めた沢村が、僕だけに聞こえるよう、顔を寄せて小さく笑った。 「いつも通りで、な」 「ん」  顎を引いた僕の肩を軽く叩いて、沢村はよっと立ち上がる。  僕が試合をまわしているのだとチームメイトは言う。買いかぶりだと思うけれど、でもそれくらいに、このチームが僕を必要としてくれているのだと思うとそれは勇気になる。  そうだ。負けられない戦いだから頑張るわけじゃないんだよ。  それは確かに分かっている。だからきっと、大丈夫。
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