ほら吹き少年と吟遊詩人

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ほら吹き少年と吟遊詩人

 村と牧草地との境には、長く柵が張り巡らされている。  少年は今日も、その柵に縄でつながれていた。  羊だって、犬に追われながらとはいえ、牧草地の中でなら、つながれることもなく自由に餌を食んでいるというのに。  つながれる理由はいつも同じ。  嘘をついてみんなをだましたから。  その罰だ。  同じ嘘に引っかからなければいいのになあ、と思わないでもない。  しかし少年は、実のところ、こうして柵につながれて、ぼんやりと空や山を眺めている時間が好きだ。  羊のゆくえを気にして、犬の相手をしたりするよりずっといい。  木々をゆらす風の音を聞いたり、広い空で次々に移り変わってゆく雲の様子を眺めているのは楽しい。  いろんな雲の形からは、いろんな物語が生まれてくる。  でもそんな話をすれば、また村のおやじさんたちからは叱られ、女たちからはばかにされるのは眼に見えていた。  それを思うと、どんなに楽しい空想にふけっていても、たちまちげんなりしてしまう。  そう考えていたときだ。  少年は、牧草地の向こうから丘を登ってくる、見慣れぬ風体の怪しい男に気付いた。
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