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男はマントに身を包み、つばの広い帽子を目深にかぶって、何やら大きな道具を肩にかついでいる。
「おおーい。おおーい! おじさんたち!」
少年はあわてて牧草地にいる村人たちに向かって叫んだ。
牧草地にいた男の一人が、面倒そうに少年に向かって叫んだ。
「今度は何だ。また狼だなんて嘘をつくと、今度こそ許さんからな」
「ちがうってば! あいつ! 怪しいやつがこっちに来るよ!」
少年は必死で、見慣れぬ男を指さして言った。
牧草地にいる羊飼いの男は、その指さされた先を見て、笑った。
「なんだ、あいつは吟遊詩人じゃないのか?」
吟遊詩人、という言葉は少年も聞いたことがある。
旅をして各地を遍歴する詩人たちは、宮廷お抱えの詩人とはちがって、大道芸人と呼ばれることもある。
しかし、それがどんな人間なのか、彼は見たことがなかった。
「吟遊詩人だ」
ほかの村人たちも気付き始め、口々に言って、口元をほころばす。
どうやら吟遊詩人は、この村では歓迎される存在らしい。
吟遊詩人が村の入り口で宿泊を申し込む前に、村長が出てきて、彼に一泊をすすめた。
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