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箒に跨り空を滑空していると、淡い夕焼けと赤みを帯びた雲達が、夜をお出迎えする様に街を覆い尽くし始めていた。人々は帰路に着き、数々の家の窓から光が漏れ出し始めている。
手を繋ぐ親子、はしゃぐ子供に注意を向けながら、献立に考えを巡らせる母親。
夕日の影響か、二人の距離感なのか、赤面しながら手を繋ぎ歩いている恋人達。
友達と追いかけっこをしている子供達。そしてそれを遠くから微笑み掛けている大人達。
普段なら気にしない日常の風景が、今日はやけに胸の中に飛び込んで来てしまう。
箒の上から見下ろす世界は、こんな風に、時として人を孤独にしてしまうのだ。
気がつけばもうこんな時間。普段なら今日の晩ご飯の支度をする為に、いつもの市場に寄っている頃合いなのだが、もう、その日常は戻って来る事はない。
一人分の夕食など、パンが数枚とバターがあればどうって事ないのだ。
「はぁ……」
今日で何度目の溜息だろう。
Fランクなんていつもの事じゃないか。反省はするし、勉強もするけど、溜息をする程でもないのだ。
だから、原因は一つだけ、遺産の事。
大叔母様の遺産、大事そうな物はいくつか分かるのだけれど、それ以外となるとさっぱり分からない。
相続者は自分しかいないのに、管理も何もあった物じゃない。マグ家として最大の恥さらしだろう、そう考えると気分が萎える。
夕焼け空が半分程、淡紫に染まり出した頃、目の前に大きな建物が見えてきた。我がマグ家の最後の家、マーフィーのお屋敷である。
一見貴族の家に見える造りだが、中に入るとこれまた別世界。様々な魔法器具が立ち並ぶ、時代を感じさせない一種の武器庫の様だと評判出会ったのだ。主にシーナから。
「ただいまー」
ついつい癖で言ってしまうのは悪い習慣なのか。誰かいれば良いのだが、誰も居ない。毎回毎回言っては虚しいを繰り返す。学習能力の低下が著しい。
「とりあえず、コーヒーでも淹れようかな」
誰も聞かない独り言が、屋敷中に響き渡るのは幻聴ではないのか。ま、今はそんな事気にしてられないけどね。
備え付けのコンロに火を灯し、さらに魔力を加えて火力を上げる。次第に水はお湯となり、コポコポと沸騰する。コーヒーと言っても簡単な粉末を入れて混ぜるだけの簡易的なのだ。本格的にミルを使っても良いのだが、気分が乗らなくていつの間にか埃被っている。
「ていうか豆を買いに行かなきゃだけど、面倒臭い、面倒ったらめんどくさい。あーあ」
コーヒーを飲み終わり、居間のソファーに崩れ落ちる様に横になった。
何だか何もかも嫌になってきた。色んな事が急すぎる。世界は私に何を求めてるんだろうって考えてしまう程にね。
そりゃあね? 早くやらなきゃいけないのくらい分かっているのよ。でもさ、先が不安なのって結構辛い物よ? いくら私がポジティブの塊だとしてもさ、一日くらいはへこむ時間があっても良いと思わない? ねえ、そう思うでしょ、私。
自分に対しての言い訳って、結構末期かもしれない。そんな時は……。
「よし!! やろう!!」
大声を上げるのが一番なのである。
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