いきなりそんなこと言われたって

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 魔導院長、この学院で一番偉い人である。その名もエーデル・フィルロ。  私の大叔母様の親友であり、戦友でもあるそうだ。昔の話をあまりしたがらないらしいが、大叔母様から少しだけ耳にした事がある。  どうも、過激派みたいなのだ。 「えええええ! 何もしてないよぅ……。は! もしかして万年Fランクで進歩が無いから……まさか退学!?」  その場にしゃがみ、頭を抱え込んだ。 「いやいやいやそれは無いと思うよ!? だって言うてFのランクが与えられてるじゃない! この学院は少しでも魔法が使えれば卒業は可能なんだからさ、いくら万年Fだからってそんな仕打ちする訳ないと思うよ」 「えぇぇぇーーそうかなーー……、まぁ行ってみるかぁー」  重たい腰を上げ、院長室に向かおうとする。 「あ、待ってエーフィー、今日は夜ご飯一緒に食べない?」 「ん? んー、ごめん、今日はいいや、ありがとね」 「そう……、気をつけてね! 落ち込んだらうちに来るのよ!」 「はーい、なら行ってきます」  中央エントランスから右斜め前を歩くと、大きい絨毯が敷かれた階段がある。その上を5階登ったところに院長室はあるのだ。どの学生も近寄りたくないのか、あまりこの場所を訪れない。  さすが魔導院長というだけあって、おぞましいオーラが扉の隙間から垂れ流されている。魔王かな? もはや魔王かな? コンコン コンコン 入りなさい。 ガチャ 「失礼します! こんにちは、ご無沙汰しております。エーフィー・マグです。先程、シーナ・ブルクより伝言を受け取りまして、ご挨拶に伺ったのですが……」  エーデルは眼鏡の隙間から伺う様に、こちらに視線を向けていた。何かを見透かす様な、それでいて強い圧を掛けてくる様な。とにかく、蛇に睨まれたネズミに気持ちが分かる。 「……こんにちはエーフィー、また試験ランクFだったってですね? きちんと勉強はしているのかしら?」  おっと、いきなり痛い所を突かれてしまったぞ。効果は抜群だ! もう既に瀕死の状態だったのに、これでヒットポイントが0になってしまった! 「……はい、またFでした。ちゃんと勉強はしている……つもりです。結果は出せませんでしたけど」  あーん! 自分で言わされるとさらに落ち込む。言霊を馬鹿にしてはいけない。 「ふん、まあいいです。それはそうと、あなたギャンブルに首を突っ込んだりしましたか?」  ん? んんん? ギャンブル? いきなりなんの話しだろう。 「へ? いいえ、特にそんな趣味はありませんが……」 「そう、そうよね。と言うことは……ミルロか、そうに違いない」  ミルロというのは私の祖母にあたる人物だ。その妹がマーフィー。ミルロはとっくに亡くなってるけどね。 「祖母がどうかしたんですか? 何があったんですか?」  エーデルは深い溜息を吐いた後、とんでも無いことを口走らせる。 「あのね、落ち着いて聞いて頂戴……マーフィーにね、約3億デルの借金があったみたいなの」 「へ?」  1デル  10デル  100デル  1000デル  そして、1万デル。  お分かり頂けただろうか? 「でも、あのマーフィーがそんな大層な借金をする理由なんてどこにもない。となると、人の良い彼女のことだから、どこか親族の借金を肩代わりしたってのが正常な判断ね。貴方じゃないとなると……そんな馬鹿するやつなんて決まってるわ。ミルロしか考えられない。ギャンブル中毒だったもの」  あまりにも衝撃的な発言を受けてしまい、一瞬硬直してしまう。が、現実は足早く私に近づいていき、掴んで離そうとはしないのであった。 「えええええええええ!!!!!!」
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