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俺がここまで言って初めて、音芽は俺が〝性的な意味で〟悶々として一夜を明かしたのだと気が付いたらしい。
ハッとした顔をしてからまるでアレコレを思い返しているかのような百面相。
そうして
「ごっ、ごめん……なさい……」
しゅんとして謝ってくる。
(可愛すぎか!)
俺はそんな音芽の様子に内心満足しつつ、「――今夜、今日の分も含めて取り戻させてもらうから。覚悟しとけよ」って言ってやった。
バカ音芽め!
今日は一日中、俺との夜に思いを馳せてソワソワすればいい。
***
音芽と、今日も昨日みたいに一緒に出勤して、ほんの少しだけタイムラグを作って別々に職員室に行こうという話になった。
昨日は俺が先だったから、今日は俺を車内に残して音芽が一足先に車を降りる。
そのまま数メートル歩いた音芽が、何かを思い出したようにふと立ち止まった。
(何だ?)
まるで森から迷い出た子リスのようなその姿に、クッソ可愛いな、などと思いつつ俺はハンドルにもたれ掛かってポーカーフェイスを心掛ける。
と、
立ち止まって何事かを思案していた様子の音芽がクルリと向きを変えるから。
俺は慌ててハンドルに突っ伏して〝お前のことなんて見てねぇからな⁉︎〟という体裁を取り繕った。
そんな俺に窓越し、控えめなコンコン……と窓ガラスを叩く音が投げ掛けられる。
――ちょっ、待っ! 何しに戻って来た⁉︎
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